瞳の中の住人
「綾音さんも。この方の本を読まれるんですか?」

 すでに目星をつけていたある一冊に手をのばす。彼女たちが好んで読む作家の本を、棚からぬいた。

「あ。そうですそうです、今日はそれを買いに立ち寄って」

 彼女が本を見て手をのばすので、なかば反射的に手渡した。棚を確認すると最後の一冊だった。綾音の顔がほころび、嬉しそうに礼を言う。

「兄が好きだった作家さんなんです。私もその影響で」

「そうみたいですね」

「え?」

「あ、いや。翼さんから以前おすすめされたことがあって」

 夢の内容からすでに知っているために、不自然のないように振る舞う必要があった。同作家の別タイトルを見つけて棚からぬいた。

「俺。あまり小説とか読まないんで、どこから手をつけたらいいか迷ってて。翼さんにおすすめされた本のタイトルも忘れちゃったし」

 できることなら、綾音自身の好きなタイトルを教えてほしいと思っていた。彼女と共通の話題がほしかった。

「だったらお貸ししますよ? 兄がどのタイトルをおすすめしたのか、だいたい見当がつきますし。その作家さんの本はほぼ読破してますので」
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