瞳の中の住人
「実際、大学で告白されているのを目撃してしまったことがあって。でも、翼さんはだれにたいしても断っていたんじゃないかな。たぶん」

 すでに想い人がいただろうから……。

「そうですか」

 返事をしながら、綾音の表情がしだいに暗くなる。目線が手元に落ちた。なにかを思い、落ち込んでいるようだ。

 彼女の明るい笑みが見たくて、翼の見てきた彼女自身の話をふってみた。

 思ったとおり、綾音は幸せそうに顔をほころばせた。彼女の解説から兄妹のエピソードに、答えを得られてなんとなく嬉しくなる。

 綾音との会話で翼を話題にすると、彼女は少女のように目を細めて笑った。その反応を見るにつれて、僕は気づきたくなかった事実に、直面した。

 綾音は兄妹愛以上の気もちで、『彼』を愛していた。おそらくは『彼』も。その答えは綾音との対話から、明らかとなった。

 僕の右腕につけたオレックスの時計を見て、彼女が素敵だと褒めてくれた。

 二十歳の祝いに親からもらったものだと言うと、お互いの誕生日がいつかという話になった。

「へぇ。もうお誕生日がきたのね、いつ?」

「うん? 六月だよ、六月七日。綾音さんは?」
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