瞳の中の住人
白石刀哉.4
綾音に眼の話をした翌日から、彼女は喫茶店『Komorebi』に現れなくなった。
彼女は僕に会いたくないのだろう。当然だ。大好きな兄の眼をもつ別人など、どう接したらいいのかわからないのだ。
こうなることがわかっていて、僕は移植の話をした。彼女との関係性をぶち壊しにした。
借りていた本もそろそろ読み終わりそうだ。
三日に一度ぐらいの頻度で喫茶店に出かけ、だめもとで綾音を待ってみた。
サイフォン式のコーヒーを注文し、彼女に借りた最後の本をひらく。ラストまで読了し、頭からまた読みなおす。
彼女の母親が僕を見て申し訳なさそうにしていた。
「ごめんなさいね、綾音ったら、ここのところふさぎこんでて」
「いえ」
彼女の心の傷をえぐるような真似をしたので、こちらの方こそ申し訳なくなる。
「とにかく、超がつくほどのお兄ちゃん子だったから。いまだに翼の死からたちなおれていないの。白石くんと仲良くなってからは、私たちも安心してたんだけど……いったいどうしたのかしらねぇ」
母親とそんな話をするころには、二週間が経っていた。そろそろ潮時かもしれない。