瞳の中の住人
「……うん。ごめん。正直、綾音さんに会ってみたくて線香をあげに行ったんだ。こんなことを言ったら引かれるだろうなってわかってるんだけど」

「そうね、だいぶん引いた。ドン引きかも……」

 え、と出した声がうわずった。隣りの彼女がこちらを向き、「嘘よ」と意地悪そうに笑う。初めて見る表情だ。

「半分は本当だけど」

「え、どっち?」

「さぁ、どっちでしょう?」

 目を細めて笑う彼女は、まるで猫みたいだ。眼球の記憶から感じとった翼の印象と、ずいぶん異なる。

 噴水から散った水の跳ねるさまを見つめながら、綾音がくすくすと肩をゆらした。そしてひとしきり笑ったあと、不思議、とひとりごとのようにつぶやいた。

「白石さんと出会ったころは、あなたに兄の面影を感じていたのに。今じゃちっとも似ていないの」

「そうだろうね。実際、容姿もなにもかも、きみのお兄さんにはかなわない」

「そういうことが言いたいんじゃないわ」

 彼女はおもむろに首をふり、噴水に向けていた瞳をこちらに投げた。
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