瞳の中の住人
 それに対して、これまでの十七年間を牧歌的に暮らし、とりたててあげる特徴すらないのが私、木崎(きざき)綾音(あやね)だった。

 クラスの中では常に空気みたいな存在だったし、勉強や運動がとりわけ他人(ひと)より優れているわけでもない。見た目は地味で、目立つ行動をきらっていた。どこにでもいる、その他大勢に分類される女子高生。それが私だ。

 ただ私の友人が言うには、私は熱狂的なほどのブラコンでときどき異様さすら感じる、とのことだ。

 たしかに、そうした自覚はあった。私が生きるせまい世界のなかで、私を信頼し、守り、優しい微笑みを向けてくれる男性は兄以外にはいなかった。

 私はそんな兄に家族以上の愛情をいだいていた。

 兄以外の男性は畑に埋まったじゃがいもやかぼちゃと同等で、なんならその声や存在すらも私にとってはどうでもよかった。

 物心がついたころから私の好きな人は兄で、兄と結婚する未来をひそかに夢見ていた。

 小学生にあがるまではそれでよかった。しかし、ひょんなことから兄妹間では結婚できないと知り、絶望的な気もちになった。
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