瞳の中の住人
それでも、今となってはこれで良かったのだと思えるから不思議だ。
なにかつきものが落ちたように、晴ればれとした気もちで満たされていた。
バッグから出したハンカチで涙のあとをふき、ふと隣りのベンチから子供の声が聞こえて、意識がそちらに傾いた。
ファーストフードを食べる親子連れが座っている。五歳ぐらいの女の子がその小さな指でポテトをつまみ、そばに立つ男の子に渡していた。
男の子の手からあたえられるポテトに、鳩が数羽むらがっていて、子供たちが嬉しそうにはしゃぎ声をあげた。幸せの風景だな、と何気なく思い、笑みをうかべた。
「そういえばおなか空かない? 何か食べにいきましょうよ?」
「ああ、そうだね。友達の話だとこの近くに美味しいカフェができたそうなんだ。行ってみる?」
「ええ」
ベンチから立ちあがった彼に並び、「そこであなたの話を聞かせてほしい」と言うと、彼はきょとんと目をまたたいた。
「白石さんがどこに住んでいて、何が好きで、どんな友達がいるとか、そんな話。あなたは私のことを知っているのに、私だけがあなたのことを知らないのは、不公平でしょう?」
「そう言われれば……そうだね」
眼鏡のおくで細められた彼のやわらかな瞳を見て、無意識に体温が上昇した。柔和な笑みに心がはずむ。
ぶらりとおろした白石刀哉の手を見つめて、自分の手のひらを意識した。さえ渡る青空の下を彼と並んで歩きはじめた。
〈了〉
なにかつきものが落ちたように、晴ればれとした気もちで満たされていた。
バッグから出したハンカチで涙のあとをふき、ふと隣りのベンチから子供の声が聞こえて、意識がそちらに傾いた。
ファーストフードを食べる親子連れが座っている。五歳ぐらいの女の子がその小さな指でポテトをつまみ、そばに立つ男の子に渡していた。
男の子の手からあたえられるポテトに、鳩が数羽むらがっていて、子供たちが嬉しそうにはしゃぎ声をあげた。幸せの風景だな、と何気なく思い、笑みをうかべた。
「そういえばおなか空かない? 何か食べにいきましょうよ?」
「ああ、そうだね。友達の話だとこの近くに美味しいカフェができたそうなんだ。行ってみる?」
「ええ」
ベンチから立ちあがった彼に並び、「そこであなたの話を聞かせてほしい」と言うと、彼はきょとんと目をまたたいた。
「白石さんがどこに住んでいて、何が好きで、どんな友達がいるとか、そんな話。あなたは私のことを知っているのに、私だけがあなたのことを知らないのは、不公平でしょう?」
「そう言われれば……そうだね」
眼鏡のおくで細められた彼のやわらかな瞳を見て、無意識に体温が上昇した。柔和な笑みに心がはずむ。
ぶらりとおろした白石刀哉の手を見つめて、自分の手のひらを意識した。さえ渡る青空の下を彼と並んで歩きはじめた。
〈了〉