瞳の中の住人
 こうした場合、フィクションのなかの世界では、恋愛対象である兄とは血のつながりがなく、あらかじめ義兄妹という設定が用意されており、主人公の望みが叶うというのが王道だ。

 ドラマや小説の設定にはげまされ、役所に出向き、一度自分の目で戸籍謄本というものを確認したことがある。

 ミラクルは起こらなかった。兄と私はれっきとした兄妹だった。同じ父母の血を受け継ぎ、同じ母のお腹からうまれた兄と妹で、決して婚姻関係などむすべぬ存在だった。

 ほらね、と内心の私がふてくされた口調で私をなじった。どんなに想っていても兄妹じゃ結婚できないんだよ。いいかげんあきらめなよ。

 兄に対する感情は恋愛感情に他ならないのに、兄妹という現実が理不尽に私を苦しめた。

 けれど、それも今となっては良い思い出だ。

 兄は亡くなった。もうこの世にはいないのだ。

 ただそばにいて兄の息づかいを聞いているだけで、幸せな心地につつまれていたのに、そんなささいな望みすら永遠に絶たれてしまった。

 兄の体は告別式を終えたあと火葬され、骨壺だけの存在となった。あれから二ヶ月たった今、兄は歩いて二十分ほどの霊園墓地で静かに眠っている。
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