裏側の恋人たち
二次会も終わり、三次会に流れる人たちと別れた。
愛菜は三次会参加組で、仲良くなった新郎の後輩たちと両手に花(?)とばかりに腕を組んで「せんぱーい、お疲れさまでしたぁ」と楽しげに去って行った。
ずいぶん酔っているけど明日の仕事は大丈夫かな。
私は瑞紀とあのコーディネーターの女性のことが気になって仕方がない。
二次会も楽しめなくてさっさと帰宅することを選んだ。
今ごろどうしているのやら。
慰労会はおそらく『リンフレスカンテ』でやっているのだろう。
その後三階の瑞紀の自宅に彼女を連れて上がるって可能性も…。
あー、やだやだ。
嫌な想像に鳥肌がたつ。
帰ってシャワー浴びてお酒飲んで寝よ。
二次会でも二人のことが気になって美味しいお酒が飲めなかったんだよね。
がーっと飲んで寝てしまおう。
帰り道の地下鉄に乗り、何となくいつもの癖でスマホを開いた。
え、何これ。
メッセージアプリの通知が何十と入っている。
送信者は5人。
全て瑞紀のお店のスタッフの女の子たちからだ。
彼女たちとは瑞紀にくっついて彼のお店回りする時に知り合って仲良くなった。
瑞紀が店の奥で帳簿を見ている間、大抵私はカウンターで飲み食いをしているから自然とスタッフたちと仲良くなるのだ。
新年会や納涼会、慰安旅行なんかにも参加してたから仲良くなって当然みたいな流れでもある。
今日はスマホを触ってなかったからメッセージが入っていたことに気が付かなかった。
メッセージは2時間くらい前から新しいものは5分前までびっしり。
どの子もみんな内容は似たり寄ったり。
『今夜は参加しないんですか』
『オーナーの機嫌が悪くて参ってるんですけど』
『二次会抜けてこっちに来ませんか』
『連絡ください』
『響さん、今どこですか』
『二次会まだ終わりませんか』
最新は『オーナー泥酔して手に負えません。助けてください』だ。
瑞紀が泥酔?
見たことないわ。
そもそもスタッフの前で周りが萎縮する程不機嫌になるとかも考えられない。喜怒哀楽の波は小さく、調和を大切に考えて動く瑞紀。
それがスタッフを困らせているとは。
『さっさと将希さんや小沢さんあたりに頼んでオーナーを自宅に突っ込んでしまえば?』
代表でスタッフ歴の長い『リンフレスカンテ』のまゆみさんに返信するとすぐにまたメッセージが入った。
『ダメですよ。あのコーディネーターの女が付いて行こうと虎視眈々と狙っているんです。オーナーが食べられちゃいますよ』
へぇ。やっぱりまだくっついてベタベタしてるわけだ。
これはもう私の不毛な恋を終わらせるきっかけになるのかも。
いつまでもこのまま宙ぶらりんでいてもどうしようもないって思っていたし。
今日のオジョウサマの結婚式を見て私も自分を愛してくれる相手が欲しい、その人と家族になりたいのだと自分の本心に気付いてしまった。
私には結婚願望があったらしい。
いつまでも瑞紀にしがみついてないで区切りをつける良い機会なんだろう。