裏側の恋人たち
「若い頃はよかったんだ。流されるままに受け身でお付き合いしていくのも。でもいつからか仕事と両立してまでって思わなくなって。眼科でもね、事故救急で夜中に呼び出されることもあるし、深夜までのオペだってあるじゃない。もちろん当直もあれば学会発表前にはそちらの準備も忙しいし。そんなときに仕事とわたしとどっちが大切なの?みたいなことを言われると”仕事だよ”って即答しそうになっている自分に気がついてしまって」
福岡先生はまた困ったように笑った。
「自分からって経験が少ないから今こんなことになっているんだ。浜さんのことは前から気になってた。君って患者受けも上司受けもいいし。でも、初めはそれって外面がいいだけなんだろなんて思ってたんだ。ごめん、失礼なことを言って」
「いえ」と首を横に振った。
だってその通りだもの。
「いや、君のは外面じゃなかったよ。さすがに24時間菩薩じゃなくて仕事は仕事、プライベートはプライベートって切り替えてるんだろうなとは思っていたけど。浜さんは仕事中とプライベートの雰囲気は違うけど、やっぱりいい人だった。中には白衣の天使なんて言ってるけど、休憩時間にくそみそに言ってる人もいるからね。それは医者もナースも同じでさ。まあストレスも溜まるし、仕事に影響がなければいいのかもしれないけど、患者さんのことを悪く言うのはちょっとね」
今”菩薩”って言いませんでした?
聞き違いでなければだけど。
「僕もこんな見た目だから怒りそうもないなんて思われてるみたいだけど、怒るよ、ちゃんと。人間だからね。年齢が上がってきたら更にちょっと沸点が高くなったかもだけど。ーーー浜さんに関しては自分から興味を持ったのが久しぶりすぎてどうしたらいいのかわからない。素の姿をもっと見たいって思ったけど、なかなか近づけない。だから佐野くんと楽しそうにタメ口で話してる浜さんを見てとられそうで不安になったよ。僕だってより親しくなりたいのにって」
目の前のクマさんがちょっとかわいく見えてきた。
でもこのクマさんそこそこに偉い先生なんだけど。
「君がただの菩薩じゃなくて酒豪で思ったより男前なところもとてもいいと思う」
え、なんてことだ。
やっぱり言ってた。
菩薩って。
おまけに酒豪で男前は女性に対する褒め言葉なんだろうかーーーー?
これにはなんと返答していいやら。
自分の仕事面だけを評価してくる人と違ってこうしてプライベートを知ってもなお好意を寄せてくれるのだとしたらそれは嬉しいことだ。
でも先生の目に映る仕事中のわたしは過大評価されていると思う。
白衣の天使はよく言われる。
もう天使なんて言われる年じゃないけど。
過去には女神もあった。
今度は菩薩かーーーー。
「先生は勘違いしていると思います。わたしは菩薩じゃないですよ。先生の中にそんなイメージがあるのならわたしは仕事以外でお付き合いできません。勝手に作ったイメージを押しつけられて後で幻滅したって言われても困るんですよね」
神様じゃないってば。
どちらかというと欲にまみれてる方だ。今のところそれはお酒とスイーツに振り切れてるけど。
福岡先生はまた困ったように笑った。
「自分からって経験が少ないから今こんなことになっているんだ。浜さんのことは前から気になってた。君って患者受けも上司受けもいいし。でも、初めはそれって外面がいいだけなんだろなんて思ってたんだ。ごめん、失礼なことを言って」
「いえ」と首を横に振った。
だってその通りだもの。
「いや、君のは外面じゃなかったよ。さすがに24時間菩薩じゃなくて仕事は仕事、プライベートはプライベートって切り替えてるんだろうなとは思っていたけど。浜さんは仕事中とプライベートの雰囲気は違うけど、やっぱりいい人だった。中には白衣の天使なんて言ってるけど、休憩時間にくそみそに言ってる人もいるからね。それは医者もナースも同じでさ。まあストレスも溜まるし、仕事に影響がなければいいのかもしれないけど、患者さんのことを悪く言うのはちょっとね」
今”菩薩”って言いませんでした?
聞き違いでなければだけど。
「僕もこんな見た目だから怒りそうもないなんて思われてるみたいだけど、怒るよ、ちゃんと。人間だからね。年齢が上がってきたら更にちょっと沸点が高くなったかもだけど。ーーー浜さんに関しては自分から興味を持ったのが久しぶりすぎてどうしたらいいのかわからない。素の姿をもっと見たいって思ったけど、なかなか近づけない。だから佐野くんと楽しそうにタメ口で話してる浜さんを見てとられそうで不安になったよ。僕だってより親しくなりたいのにって」
目の前のクマさんがちょっとかわいく見えてきた。
でもこのクマさんそこそこに偉い先生なんだけど。
「君がただの菩薩じゃなくて酒豪で思ったより男前なところもとてもいいと思う」
え、なんてことだ。
やっぱり言ってた。
菩薩って。
おまけに酒豪で男前は女性に対する褒め言葉なんだろうかーーーー?
これにはなんと返答していいやら。
自分の仕事面だけを評価してくる人と違ってこうしてプライベートを知ってもなお好意を寄せてくれるのだとしたらそれは嬉しいことだ。
でも先生の目に映る仕事中のわたしは過大評価されていると思う。
白衣の天使はよく言われる。
もう天使なんて言われる年じゃないけど。
過去には女神もあった。
今度は菩薩かーーーー。
「先生は勘違いしていると思います。わたしは菩薩じゃないですよ。先生の中にそんなイメージがあるのならわたしは仕事以外でお付き合いできません。勝手に作ったイメージを押しつけられて後で幻滅したって言われても困るんですよね」
神様じゃないってば。
どちらかというと欲にまみれてる方だ。今のところそれはお酒とスイーツに振り切れてるけど。