裏側の恋人たち
お互いの予定を合わせ、来週金曜日の昼間に行く約束をした。

嬉しい。
非常に楽しみだ。
有り難いスイーツ仲間が出来た。

現金なものだけど、自然と頬が緩み笑顔になってしまう。

「浜さんが嬉しそうで僕も嬉しいよ。金曜日、楽しみだね」

「ええ。本当に」

「でもここのタルトもいけるでしょ」

「はい。味わって食べてます」
先生の言ったとおりだ。美味しい。

おすすめのフルーツタルトにはシャインマスカットをはじめとしたいろいろなフルーツが載っているのだけど、お互いが他の味の邪魔をするわけではなくいいバランスなのだ。

「はあ、しあわせ」

今日の疲れが吹っ飛ぶようだ。

「浜さんに一歩近づけたようで僕も嬉しいよ」

福岡先生の柔らかい笑顔にちょっとドキッとして耳が熱くなる。

まあ、ちょっとこういうのもいいかもしれないなんて思ってしまったのは収穫だと思う。
こうやって男性と2人でいるのも久しぶりだし。
忘れていた感覚だー。

わたしも枯れるのは早いってことかな。
そういえばまだ32なのよね。

2人並んでレジに向かうと先生の知人というオーナーさんが「うちの自慢のタルトはどうでした?」と声を掛けてきた。

「美味しかったです。フルーツもタルト生地もとても。また何度も食べたくなるくらいに」

「そうですか、よかった。フルーツのバランスはどうでした?よかったら感想を聞いても?」

嬉しそうにそう言うから本職の方に言うつもりはなかったけど、ちょっとだけ言わせてもらおう。

「マンゴーの自己主張も強すぎず、メロンの味も負けていないし、ブルーベリーの甘酸っぱさも柿の甘さも他のフルーツもすごくいいバランスでお互い邪魔してなくてとても感動しました。他のものも食べてみたいのでまた絶対に来ます」

「求めていた答えが返ってきてこちらも嬉しいです。福岡と一緒じゃなくても是非またいらしてくださいね。勿論2人で来てくれたら嬉しいですし」

意味ありげに微笑まれてこそばゆい。
そういう関係じゃないと困って先生を見上げると先生も苦笑している。

「あのフルーツタルトは今月末までで、来月からは違う種類のフルーツの組み合わせになりますからそちらも是非。あとランチもオススメなんでそっちもどうぞごひいきに」

商売上手なオーナーと話をしているうちに福岡先生が支払いを済ませてしまっていた。

「先生、わたしの分は払います」
お財布を取り出すと、「うん、今日は僕が無理に誘ったしいいよ」と押し戻される。

「でも、いつもいろいろご馳走になっているのに」

あの差し入れの総額を考えると、かなり貢いでもらってるよ。
わたしの分だけじゃなく勤務者全員分なんだから。

「そのくらいなんでもないって」

とはいえレジ前で揉めるのもなんだと思うし、レジに立つ女性の視線も痛いのでここは素直に引いた。

「ありがとうございます。ごちそうさまでした。今度・・・じゃなくてその次はわたしが」
そう言うと、
「うんうん、今度のホテルのは割り勘でその次はご馳走して」と笑われた。

そうですね。今度のお出かけは高額クラウンプラスホテルだ。
わたしが出してもいいのだけれど、それはそれでいろいろと気を遣わせてしまうだろうし。
次の次のときにご馳走しよう。


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