裏側の恋人たち

大将のお店に行けたのは電話をもらってから2日後だった。

だからといって何か特別な話をされるでもなく、新しいお酒の話もなかった。
いつもの通り飲んで食べて少し話して帰っただけ。
大将の様子も普段と変わらなかったからよくわからないけど、何もないのならよかったと思うことにした。



金曜日。
福岡先生と最寄り駅で待ち合わせをして昼過ぎにホテルへと向かう。

前日の夕食も自宅で軽く食べたのみ。朝食を早い時間に食べて昼食を抜き、念願のクラウンプラスホテルのスイーツブッフェに心身共に準備万端だ。

「楽しそうだね」
「カフェと違って1人で来るにはさみしいし、ここに来るのは諦めかけていたので」

つい口元が緩んでしまうわたしに福岡先生も笑っている。

「わたし、ネットで予習してきました」
「何かいい情報はあった?」

「スイーツばかりで身体が冷えたりしないように間に温かいスープを飲むのがいいらしいです。塩味を入れて口直しにもなりますし。それで食事系のお料理も少し準備されているんですかね?」

「いや、そうなの?そういう意味?」

「違うのかしら?」

「でも、アフタヌーンティーのように特別なマナーがあるわけじゃないからそれもいいね」

「そうですね。アフタヌーンティーみたいに食べる順番が決まっててパン類の後じゃないとスイーツ食べられないとか、順番戻っちゃ行けないとか地獄です。ふふふ」

2人で楽しく会話をしながら会場に向かった。




ーーーー美味しかった。

クラウンプラスホテル、バンザイ。

時間無制限だったことで時間を気にすることなくゆっくり食べることができた。
メニューが変わる次のシーズンにもまた来ようという話をして先生もわたしも大満足で帰宅した。

支払いは勿論別々で。
先生はご馳走してくれるつもりだったらしいけど、ここは安いものではないしただの友達がご馳走になるのもどうかと思い、割り勘を強く強く主張した。

次回は先日のカフェでご馳走になった分わたしがご馳走すると言う約束だったからわたしおすすめの日本茶カフェに一緒に行こうと思う。
あそこの豆大福が美味しいのだ。
是非、先生の感想を聞きたい。


夜勤前にブッフェは無謀だったのか、いつもなら夜中に出勤する前に時間があれば少し仮眠をとっていくのだけど、今日は食べ過ぎが祟って眠ることが出来ず、うとうとしていたらスマホのメッセージに気がついた。

ん?あれ?大将?

『今夜来るか?』

ひと言だけのメッセージに首を傾げた。

先週の電話といい今日といいどうしたんだろう。
利き酒とか何か用事でもあるのかそれとも前回のように何となくなんでもないって感じなのか。
だけど今夜はこれから夜勤で大将のところに顔を出す時間はない。

『今夜はこれから夜勤なので伺えませんが何かありましたか』

メッセージを送ると程なくして返事が返ってきた。

『いや、来ないならいい』

またひと言で終わり。
いったい何がしたいんだろう。

先週末の二ノ宮さんの結婚式からはいろいろあって店に行く回数が減っていたものの行って顔を合わせても特別な話をすることはなかった。

吉乃と桐生くんがいないときに2人の話がしたいのかもしれない。
そんなことを考えていると眠気がやってきて仕事前に少し眠ることが出来たのだった。

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