裏側の恋人たち
遠くに子ども達の話し声が聞こえこちらに人が来る気配がして大将の腕が緩んだ。
さすがに青空の下抱き合っているのはどうかと思う。
「悪い、こんなところでこんなことをするつもりじゃなかったんだが。・・・歩きながら話をするか」
抱きしめられていた腕が離れ、左手をぎゅっと繋がれた。
手を引かれて歩き出したけれど、恥ずかしくて顔が上げられない。
海が近くなり遊歩道にも石が増えてきて、徐々に歩きにくくなってきた。
舗装されていないところを歩くのだと知っていればスニーカーできたのだけど、今日は仕方ない。
「足元、気をつけろ」と言われて「はい」と声を出した。
「ーーーあの大男と付き合うつもりだったのか?」
大男と言う単語に顔を上げた。
どう考えてもそれは福岡先生のことだと思うけど、どうして大将がそんなことを言うのかがわからない。
大将に福岡先生の話をした記憶は無い。
確かに吉乃に餌付けされそうになっているという話はした。
それのせいなんだろうか。
でも、吉乃にも付き合って欲しいと言われたことは言ってないし、スイーツ仲間として二人で出かけた話もしていない。
「わたしは、その人と恋愛関係になる予定はなかったですけどーー」
「けど?」
「一緒に出掛ける関係から親しくなっていきたいと言われたのは事実です」
「もう行くなよ」
拒否することは許さないとでもいうように繋がれた手に力が込められる。
「あの、初めはそう言われたんですけど、今は好きかどうかってことじゃなくてただのスイーツ仲間っていうか。一緒に出掛けたのも事実ですけど、恋愛感情は生まれてない」
「ふみか」
大将がピタリと立ち止まり、つられて私も足を止める。
「スイーツなら俺が一緒に行ってやる」
両頬をつままれ軽く引っ張られる。
「だから、行くな」
でも大将はスイーツが嫌いでしょ。
どう考えてもクラウンプラスホテルのスイーツブッフェに一緒に行ってくれるとは思えない。
そんなことは言えなくて、私は渋々ながらこくりと頷いた。
両頬から手が離れ、その頬に大将の唇が軽く触れて離れていった。
感触も体温も感じる暇も無くただふわりと触れただけ。
なのにかぁーっと体温が上がって膝から力が抜けて、思わず大将のシャツを掴んだ。
声を出さずに笑われている気配に気がついて大将の顔を見上げると、案の定満面の笑みで。
むっとして睨みつけると今度はがっちりと唇が重ねられた。