裏側の恋人たち
どうしてこんなことになったのかわからない。
結局いろんな意味でわたしのキャパオーバーになり、灯台に行くのは諦めて駐車場に戻り、海を見ながら自販機の缶コーヒーを二人で飲んでいる。
「まさかお前に惚れるとは思わなかった」
「はあ??」
暴言に非難の声をあげると大将が鼻で笑った。
「いや、惚れてることに気が付かなかったんだ。ふみかがあのクマみたいな大男と花束なんか持って親しげに歩いているところを見るまではな」
花束ってことは二ノ宮家の結婚式の日の話で間違いは無い。
二人で歩いていたところを大将に見られてたのか。
連れて行ってもらったあのカフェは最寄り駅は違うものの大将の店からそう離れてはいない。
「開店前に用があって出掛けたら偶然ふみかが男と歩いてるとこを見かけて。花なんか持って珍しいなと思ったんだが、用事を済ませた帰り道、今度は楽しそうに男と並んで今人気のカフェにいるところを見た。楽しそうに笑うふみかの姿を見て、どうしてか怒りを覚えた」
怒り?なのか。
「どうしてだろうな、いつの間にかふみかが俺のところに来るのが当たり前だと思い込んでた。ふみかの隣でコーヒーを飲んでるのが自分じゃないことに違和感と怒りを感じた」
ぽかんとするわたしの唇をぶにっと大将が掴む。
「あの後もふみかが店に来ると思ったら来ないし。そのあと、夕方のホテルのエントランスで同じ男と一緒にいるふみかの姿を見たときには血の気が引いたな」
ああ、と納得した。
最近の大将の変な電話はそういうことだったのかって。
どちらもわたしと福岡先生が出かけた日だった。
しかもホテルにいたところを見られたってことは、変な誤解をされたってことなのかも。
「わたし、もしかして大将に結構愛されてたりして」
大将に翻弄されていることが悔しくて意地悪く言い返してみたら
「相当重くな」
と輝くような笑顔で言われて、鏡で確認しなくてもわかるほど自分の全身が真っ赤になった。
「信じられない」
俯いて小さく呟くと
「俺もだけど、どうやらこれが事実だ。これからは俺がふみかに愛されるように俺の愛を伝えていくから覚悟しておけ」
そんなことを言われて腰が抜けそうになった。
「そういや今日の夜の予定って何なの。まさかあのクマと出掛けるなんて言わねえだろうな」
「違いますよ。職場の後輩の送別会なんです」
「それパス出来ないのか?」
「無理ですよ。わたしがいちから育てたかわいい後輩がご主人について海外に行くことになった送別会なんですから」
「くそ。じゃあ終わったら迎えに行くから連絡しろ。それとそのまま連れて帰るから泊まりの支度もして行けよ」
じょ、冗談ですよね。
神さま、ホントもう無理ですーーーーー