裏側の恋人たち
「将樹さん、瑞紀の女性関係ってどのくらい知ってます?」

「女性関係?喧嘩の原因ってまさかそれ?アイツに女性関係なんてもんないよ。ここんとこ瑞紀の周りに響さん以外に女性はいないしーーー」

そうですね、私もそう思ってましたよ。
本人が恋人はいないって言ってたし。
でも実際はちゃんといた。どんな事情で離れていたのかは知らないけど。

「喧嘩じゃないです。もしかして将樹さんも瑞紀の婚約者が戻ってきたこと知らないんですか?」

「婚約者?なにそれ」
将樹さんの目がちょっとだけ見開かれた。

「瑞紀が私に恋愛感情ないのは知ってましたけど、将樹さんもご存知のように私には恋愛感情がありましたから今まで強引にひっついていたんです。でも、婚約者さんが戻ってきた以上私が瑞紀の近くにいられるはずないじゃないですか。だから距離を置くのは当たり前。奪うとかそんな関係無理です」

「ちょっと待って。瑞紀に婚約者なんて話聞いたことないけど」

「なら、お相手はあの部屋で瑞紀が一緒に暮らしてた女性っていえばわかります?付き合い長い将樹さんなら私の知らないことも知ってるんでしょ?ーーもういいですか。これ以上こんな話はしたくないし、席に戻りたいんで」

まだ何か言いたそうな将樹さんを振り切るようにして席に戻り、美也子に将樹さんに聞いた通り条件が合えばウエディングをすることが可能だと告げた。

「ーーーそっか。わかりました。お店の方に話を聞く前にこっちの意見をもっと絞り込んでおかないと失礼だって言うのもよくわかりました。具体的な人数、金額、食事だけなのか、式もここでやりたいのかとか全然絞り込んでもいないのに舞い上がっちゃってほんっとにごめんなさい」

しゅんっとした美也子の姿に苦笑する。

「結婚することが決まったばかりなんでしょ、しょーがないって。みんなそんなもんじゃないの?浮かれるなって方が無理だしさ。ここも候補にしてこれから具体的に検討すればいいじゃない」

「私もお店側の人間なのに深く考えずに後押ししてスミマセン。費用とか何にも考えてなかった・・・そんな簡単な話じゃないんですね」

一緒になってクミちゃんが小さくなってうなだれる。

「ホントにねー。私たち三人とも独身だからなーんにもわかってないよね。私も今後のための勉強になったわ。っていっても私に理想はないから旦那さんになってくれる人の主導になりそうだけど。なんならやらなくてもいいし」

「「えっ」」

二人が同時に私の顔を見る。

「センパイ、結婚式とか興味ない派ですか?」

「そうねー、結婚願望はあるの。でも結婚式に関しては絶対にやりたいかと聞かれたら別にいいかな。でも、旦那さんになる人の都合もあるだろうから旦那さんがやりたければやればいいし、やりたくなければ別にいいかなーーーって」

「響さんスタイルもいいから絶対ドレスに合いそうなのに、勿体ない~」

クミちゃんの視線が私の胸元とウエストラインに移動する。
うん、ちょっと胸は人より大きめでウエストは細めかな。これ母方の遺伝らしくて母も叔母も従姉妹たちもみんなこんな感じなのだ。
だからこそ余計に”肉食”なんてイメージをもたれるんだろうけど。

「私のことはいいの。それよりね、美也子、既婚者の話とか聞いた方がいいわ。漠然としか考えたことなかったけど、結婚するっていろいろ大変ねぇ。勢いがなければ出来ないかも」

「私もそう思っちゃいました」

クミちゃんが同感だと頷いている。
さすがにだからやりたい人だけやればいいと思ってるなんてことは口に出しては言わなかったけれど、私は本気でそう思っている。
こうやりたいって理想があればいいけど、理想もなにもない私じゃね。

「さて、クミちゃんの話は終わったの?聞きたいことは聞けた?」

「はいっ、ありがとうございます。さっき連絡先もいただきました。いつでも連絡していいって言っていただいて、ホントに安心です」

ニコニコ笑顔のクミちゃんの様子で今日の集まりが成功だったことがわかる。

「じゃあ話も終わったことだし、そろそろ出よっか」

二人を促し店を出た。

あれから将樹さんの姿は見えなかったからこちらもわざわざ声を掛けることはしなかった。




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