裏側の恋人たち
「センパイ、ごちそうさまでした」
「すみません、私までご馳走になって」
今日は私の奢りである。

「いーの、いいの。クミちゃんは学生さんだし、美也子はわざわざ来てもらったし結婚も決まったお祝いってことで。臨時収入もあったからここはお姉さんにどーんと任せなさいっ」

もちろん結婚祝いは別に渡すつもりだけれど、臨時収入が合ったことは嘘ではない。
例の僻地研修、あれに参加するとちょっとした研修費というお小遣いがもらえるのだ。さすが太っ腹、二ノ宮グループ様。

「だったらこの後、お茶のみに行きませんか。今度はご馳走します。南青山のお店でお抹茶が美味しいんですよ」
「あら、お抹茶なの。いいわねー、行こう、行こう。ね、センパイ」

「あ、ごめん。お抹茶はとっても魅力的なんだけど、私この後予定があるのよね。悪いけど二人で行ってきて。なんか二人ともすごく仲良くなってるから私がいなくてももう平気でしょ」

せっかくのお誘いを断わるのは気が引けたけれど、予定があるのは嘘ではない。
ごめん、と両手を合わせて断わる姿勢をとった。

「センパイ、この後の予定って仕事じゃないんでしょ。もしかしてデートですか」

「デートじゃあないわね」

この後はサッカーを観に行く約束をしていた。
と言っても職場の仲間の試合じゃなくてJリーグ観戦だ。一緒に行くのはあのメンバーなワケだけど。

「男性と一緒っていうのは否定しないんですね」

「まあ男性も一緒だから」
サークル活動なんだけどね。

一瞬にして変わったクミちゃんと美也子の興味津々って顔にうんざりしながら「後はお若い二人で」とひらひらと手を振った。

「あ、逃げないでくださいよ-」
クミちゃんに腕をとられる前に「お疲れさま、またねー。今日は美也子もサンキュー」と駆け足で逃げ出した。

一旦帰って着替えをしなきゃいけない。でもサークルのメンバーとの待ち合わせは夕方で時間的にはまだまだ余裕だった。
ただこれ以上瑞紀の関係者に自分のプライベート情報を教えることには抵抗があった。
まだクミちゃんは知らないみたいだけど、瑞紀があの婚約者と結婚することは近いうちに公表されるだろう。と言うことはわたしの失恋が瑞紀の関係者ご一同さまに公表されるということだ。

瑞紀に失恋したからサークル入って婚活してるなんて思われたらちょっとイヤだ。
やっぱり彼氏が出来るまで瑞紀関連のお店の出入りは止めておこう。みんなにお気の毒に・・・みたいな顔で接客されたらと思うとぞっとする。
サークルの飲み会もお店を確認してから参加を決めようーーーと心の中で固く誓った。

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