裏側の恋人たち
新しい住まいの住所は病院と同じ路線で電車で三駅という近い場所にあった。

しかも駅から裏通りに入ってすぐに建つその建物は中層マンションと言うやつだった。
お洒落な植栽もブラウン系の外装も落ち着いていて駅前のタワマンよりも魅力的だ。

なーんてわたしは関係ないんだけど。
瑞紀があの婚約者との新婚生活を送るために準備した住まいだと思うとやさぐれそうになる。
瑞紀と接するのもこれで最後だから我慢、我慢。

紙に書かれた部屋の玄関ドアを開けると、オートライトが灯り広い玄関フロアと廊下が照らし出される。

建物を見たときから思ってたけど、なんかすごい高そうな部屋だ。
分譲?賃貸?聞かなかったけど、いくら位なんだろう。

まずは病院に持って行くものを纏めて、その後で戸締まりの確認。
廊下の突き当たりのドアを開けると予想通り広いリビングルームがあった。

はあー、窓大っきいわあ。
こんなサイズの既製カーテンなんてないだろうから全部オーダーメイドだよね。すごー。
キッチンも最新式だー。こんな換気扇いいなぁ。どこのメーカーなんだろう。日本製なのかな。よく吸い込んでくれそう。お手入れは楽なのかな。

ーーーま、関係ないんですけど。

まだ引っ越したばかりのせいか、それとも使っていないのか生活感がない。
衣類があるってことは完全に引っ越ししたんだよね?
前の部屋の時はそれなりに生活感あったけど。

まだ全ての荷物の運び込みが終わってないのか新しいものを買いそろえるのか知らないけど、リビングにはソファーのひとつもなくレースのカーテンが引かれているだけ。

普段余り気にしたことはなかったけど、都内で何店舗もの飲食店を経営している瑞紀はお金持ちだった。
新婚生活だもん、家具も家電も新しいものに買い換えするのかー。
住まいまで新しくするのだからそんなもんか。庶民には理解できない話だ。

ーーーそんなことより頼まれたものを探さないとだった。
広いリビングに見とれてしまって自分の役目を忘れそうになったけど、本来ならここに入っていいのは婚約者さんであってわたしじゃない。


書斎らしい部屋に入ると大きなデスクと壁一面の収納と本棚。
デスク横のサイドテーブルには飲みかけのペットボトルと、食べた後のプロテインバーの袋、ゼリー飲料などが転がっている。
ここは生活感に溢れていた。

リビングとすごい違いなんですけど。

デスク横にあったPCケースにノートパソコンを入れ、パソコンの隣に置かれていた水色の封筒も一緒に入れておく。
それを一旦玄関に置いてもう一つのドアのノブに手をかけた。

問題はここなんだよね。
頭の中で何度ため息をついたかわからない。

好きな人が他の女と寝ている寝室に入りたいと思うわけがない。
イヤだなぁ。

ベッドは見ないようにクローゼットから下着を探し出してダッシュで出てこよう。
よし、行くぞ。

覚悟を決めてドアを開けた。

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