裏側の恋人たち
「まさかあのタイミングでアイツが帰ってくると思わないし、それから響と連絡取れなくなるとも思わなかったからな。どれだけ俺が落ち込んだか響にはわかんねーだろうけど」

「あら、それはちょっと聞き捨てならないわね。そもそもお互いのプライベートの連絡先を交換してなかったのは瑞紀のせいでしょ。私はしつこく頂戴って言ったのに瑞紀が店に来れば連絡がつくなんて言って連絡先をくれなかったんだから」

瑞紀が悪いと主張すると「それはもう本当に反省してる」とうなだれた。

「結婚願望ない上に”友達の妹”ってなんかヤバいだろ。背徳感というか」

「はあ?ただの連絡先交換のどこに背徳感があるって言うの。ばかじゃないの。仕事関係の人には散々連絡先教えてるんでしょーが」

「ああ、でもそれプライベート用じゃないし」

「背徳感があるなら私にも仕事用を教えておけばよかったんじゃない」

「今考えるとそうなんだけどな。なんかイヤだったんだよ、仕事の関係者の括りに響を入れることが」

「だからってプライベートにも入れなかったくせに何言ってんの」

目を細めて睨みつけると、また瑞紀が大きな身体を小さく縮めるから笑えてくる。

「うちの伯父さん、伯母さんに気に入られてる女も響だけなのにな」

彼らは私の兄とも懇意にしているらしく出会ったときに”佐脇君の妹さん”として好意的に接してもらえた。

その伯父さん伯母さんが私にこぼしたのだ。
瑞紀に女っ気がなくて困ると。
だから言ったのだ、「じゃあ私が立候補しますね」と。

その宣言をしたのが当時私の病棟に入院していた瑞紀の病室で、瑞紀は患者、私は受け持ちナースという立場だったのだけど。
それが1年半ほど前の話だ。


「話を戻すけど、それで結婚しないことを義妹さんは納得したの?」

「それはもちろん。アイツも本気で俺と結婚だなんて考えてなかったよ。実家に帰ってきたら俺が女を連れ込んでいたから腹が立って嫌がらせで言っただけって言ってたからな」

嫌がらせかよ・・・。マジで悪質。
仲良くなれそうもないタイプだわ。

「『突撃されるのがイヤなら電子ロックの番号は変えるべきだったわね』って言われてキレそうになった」

この表情、キレたんだろうなーーー
はあ。なんて言うか、ご愁傷様・・・。

「・・・・・・3階の部屋の家財の件も解決したの?」

「ああ。義妹が欲しいものだけ引き取っていって後は処分した。で、あそこは会社名義にして社宅になったんだ。しばらく『リンフレスカンテ』の小沢店長が夫婦であそこに暮らすことになる。出退勤が楽になると喜んでたぞ」

「そう。よかったね」

奥さんラブで長時間労働を嫌がっていた小沢店長だけど、これからは休憩時間にも奥さんに会えることだし今以上に頑張ってもらいましょう。





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