裏側の恋人たち
「お前の兄貴には聞きに行ったんだぞ」

「偉そうに言うけど、それ仕事のついでだよね。不動産登記のってやつ」

私のつっこみに瑞紀の目が一瞬泳いだ。

「ついでってワケじゃなかったンだけどな。でもさ、響は自分の兄貴に俺と会ってること言ってなかったんだな。おかげで『何でお前が俺の妹の連絡先なんて知りたがるんだ』ってすげー追及されてさ。おかげで響にプロポーズする前に佐脇に響と結婚したいって言わなきゃいけなくなってさ、なのに連絡先は教えてもらえないとか最悪だったわ」

あ、あらまあ。
でもそれは自業自得ってヤツなのでは。

「でも、打ち掛けはなんで?」

「佐脇にさ『お前なにやってんだよ、最悪だな。俺は妹が可愛いから、妹がお前に会いに行かないっていうなら俺も連絡先を教えるつもりはない。でも、長年お前の友達をやってきた身としてはお前を突き放すのもかわいそうだと思う』って言われてさ」

でもたぶん、兄はこういう風に使われると思ってなかったと思うんだよね。
いいこと教えるから後でうまいこと使えよってつもりだったと思うよ。

まさか、兄も瑞紀が私に告白もきちんとした交際もせずいきなりプロポーズするとは思ってなかっただろう。
兄の中ではプロポーズしたあとサプライズで着物を見せるくらいの想像だったと思う。

全くこの男ときたら。

「で、実家にはなんて言って借りてきたの」

「お嬢さんをくださいって挨拶してきた」

「ば、ばかじゃないの?!交際する前に親に結婚の許可とるとか、ホント頭おかしいとしか思えない」

そこはまず、本人。本人に申し込めよ。

「でも、断わられる予定はなかったから」

・・・・・・確かに断わるか断わらないかと言われれば、最終的には断わりませんよね。
さらりと核心を突かれて、どうにもむかつく。

「決めた。やっぱり、いろいろ結婚まで大事にとっておこう」

「は?」

決意を新たに拳を握りしめる。
やられっぱなしじゃどうにも腹の虫がおさまらない。

「ここはきっちり線を引いた方がいいと思うの。まだ結婚前だし。接触は手を繋ぐのとハグまで」

「冗談だろ・・・?」

「いいえ、本気」

ま、全身打撲の男がなにを言っているんだかってことでもあるんだけど。
今までじらされたこととちゃんと告白してくれなかったことの恨みもこの際きっちり嫌がらせで返させてもらおう。

ふんっと鼻息を荒くした私と対照的に絶望的な顔をした瑞紀。

さあ、頑張ってもらいましょうか。





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