裏側の恋人たち
どういうことかわからず瑞紀の顔を見つめると、くいっと背後を顎で示された。
瑞紀の示す方には此方に向かって近付いてくるスーツ姿の若い細身の男性。
お人形のような透明感のある肌と整ったお顔。
私には見覚えはないから、愛菜の知り合い?
愛菜は彼の顔を見てはっとしたように目を丸くしていたけれど、それから土佐犬の性格をしまい込んだようになぜか視線を避けるように俯いている。
何故か必殺技のチワワのうるうる瞳も封印している。
「さあ、立って。会計は済ませてあるし、後輩の邪魔になるぞ」
そうなの?邪魔になるの?
愛菜は目を合わせてくれないし、瑞紀は笑っているけれど。
その間にスーツの男性は私たちのテーブルにやってきた。
「今晩は。雅田尚登です」
「佐脇響です」
近くで見ても綺麗なお人形のような雰囲気に飲まれそうになる。年はたぶん私より下、愛菜と同じくらいかな。
「あーじゃあ後はよろしく」と瑞紀が言うと
「はい。今日はありがとうございました。感謝します」
そう言って雅田さんは柔らかい笑顔で愛菜を見るから大丈夫かなと私も立ち上がった。
「佐脇さぁーん」
「愛菜、またね」
愛菜が顔を上げて縋るような目で私を見るけれど、私も瑞紀に「早く帰るぞ」と手を引っ張られ連れ出される身だ。
ごめん、なんだかわからないけど、訳ありっぽいからまた今度詳しく聞くからね。
たぶんだけど、雅田さんは愛菜の敵じゃない。
いくら相性が悪くても私の後輩に対して害がある相手を瑞紀が連れてくるはずはない。
お店を出てすぐのところにある駐車場に瑞紀の車は停められていた。
おとなしく助手席に乗ってから問いかける。
「ねえ、雅田さんって何者?」
「先月から頼んでるコンサルなんだけど、どうやら響の後輩の昔の知り合いらしい。偶然なんだけど、仕事の後の雑談をしてて嫁がナースだって言ったら自分もナースの嫁をもらうつもりだったって言い出して。MBAを取りに留学してるうちにいなくなったんだってさ」
「その相手がどうして愛菜だって思ったのよ」
「だって、雅田さんから『ギャップ萌えする子なんです、本当に可愛くて。見た目トイプードルだけど、中身ハスキー犬』って聞いておや?っと思ってさ。まさに、アレだろ」
「・・・・・・。」
ごめん、愛菜。否定してあげられないわ。
「あんな二面性のあるヤツがそう何人もいてたまるか。幼馴染みなんだそうだ。あいつ幼稚園の時にはもうあの性格だったらしいぞ」
あーーーそうなんだ。
幼稚園児で既にああだったのか。そりゃまた・・・・・・。
「雅田さんが留学から戻ったらあいつの実家丸ごと、一家揃っていなくなってたそうだ。家屋敷も人手に渡っていて、何かあったのだということはわかったけどどこに行ったのかはわからなかったと。雅田さんには忘れられない相手だったらしいし、ま、俺たちは温かく見守ってやろうぜ」
「そうだね・・・・・・。」
愛菜の過去は何も知らない。
雅田さんのことも聞いたことがない。
親しいとそう思っていたのは私だけだったんだろうかと考えるとちょっとさみしい。
「響。あの狂犬がお前に懐いていたのは間違いないと思うぞ。アイツ、俺が入院中からこっちは患者だっていうのにいつも人のことウジ虫を見るような眼で見やがって。響が俺にアプローチするのが気に入らなかったんだろう。まったく飼い主をとられた犬みたいだった」
いや、愛菜のこと狂犬とか犬とか。
でも、愛菜もウジ虫を見るような目で見てたってーー?そんなこと知らないんですけど?
どっちからもそんな話は聞いていないし。
そんなこと今言う?!
「人には言いたくないこともあるだろうし言えなかっただけかもしれないし。気にするな。向こうが何か言ってきたら聞いてやれ」
「うん・・・」
もしかしたら愛菜の長続きしない異性関係も過去が影響しているかもしれないし。
雅田さんがずっと愛菜のことを思ってくれていたのだとしたらこの先何かいい変化があるかもしれない。
とりあえず、私が今できることは見守ることだろう。
瑞紀の示す方には此方に向かって近付いてくるスーツ姿の若い細身の男性。
お人形のような透明感のある肌と整ったお顔。
私には見覚えはないから、愛菜の知り合い?
愛菜は彼の顔を見てはっとしたように目を丸くしていたけれど、それから土佐犬の性格をしまい込んだようになぜか視線を避けるように俯いている。
何故か必殺技のチワワのうるうる瞳も封印している。
「さあ、立って。会計は済ませてあるし、後輩の邪魔になるぞ」
そうなの?邪魔になるの?
愛菜は目を合わせてくれないし、瑞紀は笑っているけれど。
その間にスーツの男性は私たちのテーブルにやってきた。
「今晩は。雅田尚登です」
「佐脇響です」
近くで見ても綺麗なお人形のような雰囲気に飲まれそうになる。年はたぶん私より下、愛菜と同じくらいかな。
「あーじゃあ後はよろしく」と瑞紀が言うと
「はい。今日はありがとうございました。感謝します」
そう言って雅田さんは柔らかい笑顔で愛菜を見るから大丈夫かなと私も立ち上がった。
「佐脇さぁーん」
「愛菜、またね」
愛菜が顔を上げて縋るような目で私を見るけれど、私も瑞紀に「早く帰るぞ」と手を引っ張られ連れ出される身だ。
ごめん、なんだかわからないけど、訳ありっぽいからまた今度詳しく聞くからね。
たぶんだけど、雅田さんは愛菜の敵じゃない。
いくら相性が悪くても私の後輩に対して害がある相手を瑞紀が連れてくるはずはない。
お店を出てすぐのところにある駐車場に瑞紀の車は停められていた。
おとなしく助手席に乗ってから問いかける。
「ねえ、雅田さんって何者?」
「先月から頼んでるコンサルなんだけど、どうやら響の後輩の昔の知り合いらしい。偶然なんだけど、仕事の後の雑談をしてて嫁がナースだって言ったら自分もナースの嫁をもらうつもりだったって言い出して。MBAを取りに留学してるうちにいなくなったんだってさ」
「その相手がどうして愛菜だって思ったのよ」
「だって、雅田さんから『ギャップ萌えする子なんです、本当に可愛くて。見た目トイプードルだけど、中身ハスキー犬』って聞いておや?っと思ってさ。まさに、アレだろ」
「・・・・・・。」
ごめん、愛菜。否定してあげられないわ。
「あんな二面性のあるヤツがそう何人もいてたまるか。幼馴染みなんだそうだ。あいつ幼稚園の時にはもうあの性格だったらしいぞ」
あーーーそうなんだ。
幼稚園児で既にああだったのか。そりゃまた・・・・・・。
「雅田さんが留学から戻ったらあいつの実家丸ごと、一家揃っていなくなってたそうだ。家屋敷も人手に渡っていて、何かあったのだということはわかったけどどこに行ったのかはわからなかったと。雅田さんには忘れられない相手だったらしいし、ま、俺たちは温かく見守ってやろうぜ」
「そうだね・・・・・・。」
愛菜の過去は何も知らない。
雅田さんのことも聞いたことがない。
親しいとそう思っていたのは私だけだったんだろうかと考えるとちょっとさみしい。
「響。あの狂犬がお前に懐いていたのは間違いないと思うぞ。アイツ、俺が入院中からこっちは患者だっていうのにいつも人のことウジ虫を見るような眼で見やがって。響が俺にアプローチするのが気に入らなかったんだろう。まったく飼い主をとられた犬みたいだった」
いや、愛菜のこと狂犬とか犬とか。
でも、愛菜もウジ虫を見るような目で見てたってーー?そんなこと知らないんですけど?
どっちからもそんな話は聞いていないし。
そんなこと今言う?!
「人には言いたくないこともあるだろうし言えなかっただけかもしれないし。気にするな。向こうが何か言ってきたら聞いてやれ」
「うん・・・」
もしかしたら愛菜の長続きしない異性関係も過去が影響しているかもしれないし。
雅田さんがずっと愛菜のことを思ってくれていたのだとしたらこの先何かいい変化があるかもしれない。
とりあえず、私が今できることは見守ることだろう。