裏側の恋人たち
「水着はもう無理なんだけど、水上アクティビティーとかやってみたいなぁ」

前回水着を着たのはもう10年以上前の話だ。
あの時も全身ラッシュガードでサングラスしたし。
いや、もう無理だ。
気をつけているけど気になるお肉とかあるし。

「・・・水上アクティビティー・・・水着か・・・・・・。」

瑞紀の眉間にちょっとしわが寄る。

「いやいやもちろん着ませんよ?大丈夫。世間の皆様のお目汚しになっちゃうしね。アラフィフが何やってるんだってー」

「何言ってるんだ、響の水着姿がお目汚しになんてなるはずがないだろうが。むしろ小娘たちには負けてないし、俺は色気がダダ漏れだから見せたくないんだ。・・・・・・プライベートビーチを探すか、クルーザーをチャーターして沖に出てアクティビティーも借りるか・・・露出が全くない水着も探さないと・・・」

「え、えーっとちょっと待って。冗談、冗談だから。宮古島ってアレでしょ、伊良部大橋があるとこだよね、ドライブ、ドライブしたいなー。二人でドライブだってもう何年もしてないし。夕日見てホテルのバーでカクテル飲んだりとか、大人の旅行してみたいなーふふふー」

ヤバイ、ヤバイ。
瑞紀ったら私の発言ひとつで大枚をはたいて何かしようとしてるよ。
いくら二人きりの旅行が久しぶりだと言っても、本当に嫁馬鹿で困る。

「やりたいんだろ。バナナボートか?パラセイリングか?フライボードか?」

「ううん、ほんとに冗談よ?私は瑞紀とドライブして綺麗な景色を見たり現地のものを食べて飲んで、二人っきりを満喫したい」

「でも」

「宮古牛とかアグーとかヤシガニとか食べてみたいなー。ねっ」

「ああ、ヤシガニか。いいな」

「ね、食べ歩きしようよ。で、美味しかったものを東京に送ろう。帰ってからもみんなで食べられるように」

「そうだな、うん、いいな。ドライブしながら食べ歩きして夜はバーにでも行くか」

うんうんと期待に満ちた目で瑞紀を見るとあの笑顔が返ってきた。

ああ、本当に好きだな、その顔。
私はこの男に20年以上恋をしている。

もう一度抱きついて一瞬その頬に軽く唇を押しつけてみた。
嗅ぎ慣れた瑞紀の匂いと安定の胸板に安心する。
途端に身体が抱き上げられてそのままベランダから室内に運ばれた。

「ちょっとちょっと、重いからからやめて-」

「わざわざ外に見せつける必要ないだろ」

ううん、ちょっと頬にキスしただけじゃん。
真っ昼間に変なスイッチ入ってないよ。

ソファーに下ろしてくれるのかと思いきや寝室に運ばれる。
み、み、瑞紀?まさか?!
昼間、昼間、昼間だから。まだお仕事残ってるよね?一時帰宅しただけでしょ?

寝室の鍵がカチャリと閉められてすぐに唇が落ちてきた。

「ガキどもが帰ってくると困るからな」

そう言って温かい手で頬を撫でられ急に私の体温が上昇してしまう。

ベッドに押し倒され更にじっくりとキスをされてすっかり力が抜けてしまった私。
もう若くないのにこういうのって心臓に悪い。

そんな私の様子に瑞紀は半身を起こしご機嫌な様子で私の髪を梳く。

「響、お前何年俺を夢中にさせんの。すげーな」

それは私の台詞だと言いたいけれどそんな元気もなく、恨みがましい目でじっと見つめるとふんと鼻で笑われる。

「楽しみだな、宮古島」

瑞紀の視線が窓の外に向く。
つられて私も窓を見ると、青空が見えた。
宮古島の青空はもっと青いかな。
たとえ雨でも二人でいたらきっと楽しい。

「早く行きたいわね」
「ああ」

そしてもう一度キスをした。







肉食ナース 佐脇響の場合    

 終





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