裏側の恋人たち
帰ってひと眠りして午前中に掃除洗濯を済ませて近所のスーパーに買い物に行く。
今日は友達と夕食を食べる約束をしているからお昼ご飯は軽めにしよう。
いつもならお気に入りのカフェのテイクアウトのサンドイッチを買うのだけれど、夜に外食をするから昼は自炊。
スーパーで数日分の食品を買い、いつものカフェの前を素通りしようとして思わず声をあげた。
「福岡先生」
福岡先生がテイクアウトの袋を両手に持ちカフェから出てくるところだったのだ。
ああ今日土曜日だっけ。先生もお休みか。
「あれ?浜さん。偶然だね」
ええ、ええ、ホントに偶然ですけど、その両手の袋の中身はなんだろう。
何をどれだけ買うとカフェでこんなに大荷物になるんでしょう。
お店のドアを出るのにも苦労しているようだったから私がドアを押さえてあげて福岡先生が出るのを手伝った。
「ありがとう。こういう時自動ドアじゃないとちょっと不便だよね。」
全くもってその通り。
でも設計段階ではカフェでこんなにテイクアウトする人がいるとは思えなかったのかも。
このかわいいお店には自動ドアよりドアベルが鳴るシンプルな木製ドアが似合うと思うし。
「すごいお荷物ですね。これからパーティー?それとも差し入れですか?」
ああこれね、と肩をすくめ照れくさそうに笑う福岡先生はやっぱりクマみたいで癒やし系だと思う。
「今から結婚が決まった友人宅に行くところなんだ。これは差し入れ」
「ここのカフェのランチセットは美味しいですものね」
納得、納得。
私はここのスモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチが好きだけど、スモークチキンや卵とツナも美味しい。フライドポテトや唐揚げとセットにもしてくれるし。
「それにしてもすごい量ですね・・・」
全種類を買ったのかっていうほどの大荷物。いったい何人で集まるんだろう。
「このお店のが美味しいって二ノ宮さんに聞いたものですから、いろいろ試してみたくてーーでも、さすがにちょっと買いすぎてしまったみたいです」
買いすぎですか。
でも、このカフェのことを福岡先生に教えたのが水ちゃんだということになぜかちょっと胸がチクリとした。
水ちゃんにこのカフェを教えたのは何を隠そう、私だ。
・・・・・・いいけどさ。
「じゃあ、私は失礼します。先生もお気をつけて」
会釈をして立ち去ろうとすると、
「あ、ちょっと待って」と止められる。
なんだろう。立ち話はちょっと困る。購入したお肉とか早く冷蔵庫に入れたいし。マイバッグに入れたジャガイモも結構重い。
「あのさ、僕車なんだけど、よかったら送ろうか?浜さんのそれも重そうだし」
「え?」
「車、すぐそこに停めてあるんだ。だから、送るから乗っていかない?」
そうか、私のこの荷物の心配をしてくれたのか。
「ありがとうございます」と言うと「じゃあ、そこの角のーー」と言いかけた福岡先生に「いえ、近くですので大丈夫です」とお断りをする。