裏側の恋人たち
「浜さん、カンファレンスって何時からですか」
真面目な顔して水ちゃんが聞いてくるから笑った。

「あら、そんなの嘘よ。う・そ」

優芽は「さっすが浜姐さん」と深く頷いてきた。
姐さんははやめて。

「聞くに耐えない暴言だったもの。って暴言は私もよね」

「そんな事ないですよ。水ちゃんはもっと酷いこと言われたんですからっ。ホントにあの女いったいなんなのよ」
優芽も顔をしかめている。

「彼女、先月から望月先生の代診で大学から来てるけど、7E病棟の主任の話じゃあまり評判よろしくないみたいね」

水ちゃんは暗い顔のまま、優芽はそうでしょうともと言わんばかりに深く頷いた。

「水ちゃんは顔色戻るまで今から会議室で私の代わりに内職。水ちゃんの担当の病室は私が代わるから」

「いえ、そんな。大丈夫です。やれます」

「ダメよ、酷い顔してる。そんな精神状態の人に大事な命は任せられない」

気持ちはわかるけど、こうして見てしまった以上現場に出すわけにいかない。

「・・・そうですよね・・・すみません。お願いします」

わたしは真っ青な顔色の水ちゃんの頭にそっと手を乗せた。

「このところ水ちゃん元気ないと思ってたの。なにがあったのか知らないけど、仕事に私情は持ち込まないっていう精神力は付けておくようにね。だけど今回はトクベツに私が仕事を変わってあげる。ちょうどそんな水ちゃんにぴったりな”特別”なオシゴトもあるし」

特別を強調したわたしに優芽がくすりと笑いを漏らした。

「それ、科長に頼まれた事務仕事が嫌いだから自分の代わりにやってって意味ですよね」

「あ、コラ。それは秘密でいいじゃない。それにアレ別に私がやらなくてもいい仕事なんだから」
おっとバレバレか。
「単純作業は1時間やっただけで飽きたわ」

単純作業に向いている人材がここにいるではないか。
これも適材適所なんだよと優芽に向かって言うとニヤニヤされた。わたし君よりかなり先輩なんだけど。

「やります。本当にすみません・・・」

しゅんとする水ちゃん。

「水ちゃん、さっきも言ったけど今回はフォローしてあげる。でも私もずっとあなたと一緒に仕事をしていけるわけじゃないから、そこはちゃんとして」
そろそろ完全に独り立ちしてもらわないとね、と気合いを込めて水ちゃんの背中をぱーんと叩いた。

ほら、がんばれ。




水ちゃんの代わりにオペのお迎えに行って気が付いた。
わたし、お昼ご飯食べてなーい!

あの女王様のせいじゃないか。許すまじ。


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