裏側の恋人たち
「世の中には一回り違いの夫婦だってザラにいます。俺と吉乃さんはそこまで離れてないし、何が問題なのかわかりません」

「ーーー桐生君ってさあ、吉乃と結婚したいの?それともただ付き合いたいだけ?」

「もちろん受けてもらえるなら結婚して家庭を作りたいです。ずっと一緒にいて欲しいに決まってます」

「そう。大事にしてくれるのよね。1年後も5年後も10年後も。ーーーー5年後あの女子大生の子は25才くらいかしら。君は30で吉乃は38。二人の間に子どもとかいるかしら。子どもなんていなけりゃなくてもいいけど、欲しいひとは欲しいよね。
桐生君のご両親はどう?孫はいてもいなくてもいいのかしら。もし出来にくかったらどうする?治療する?女性にはリミットがあるの知ってる?君はイケメンだから何年経っても女の子が寄ってくるわよね。きっと50になっても。その頃吉乃はアラ還ね」

「ふみかさんっ」

桐生君が堪えきれずという風に立ち上がった。

「ふみかさんがなにを言いたいのかわかりません。今はまだ子どものこととか考えられないし、出来ても出来なくてもそんなことはどうでもいいんです。仮に出来なくてもうちの親には何も言わせません」

そうでしょうね。
ルイボスティーを口に運び、自分自身も一呼吸入れた。

「座りなさいよ。ーーーだから言ったでしょ。私は君が聞きたいことを言うわけじゃないって」

「・・・・・・。」

「《《君は》》いいかもしれない。でも吉乃はどうだろう。どんなことからも吉乃を守る?今はそう言うわよね。でも、君が求めてなくても女の子は君に寄ってくるでしょうね。それを見る吉乃はどう思うのかしら。例えば5年後とか。私たちは間違いなくアラフォーだわ。君はまだ30になるかならないかで、若い女の子に囲まれてる。客商売をするのだから無碍にも出来ないし。毎日のように君目当ての女性客が通ってきたり、プレゼントを渡されたりするのを見たらどう思うのかしら。ただの客だから我慢してって言う?」

「そんなことっーー」

「吉乃だって自分磨きを忘れないだろうから年齢よりは綺麗かもしれない。でも、不安にはなるでしょうね」

桐生君が更に不満げな表情になる。
彼が口を挟む前に引導を渡してしまおう。

「私たちにとって年下との恋愛はある意味大きなリスクなの。今の君じゃ理解できないだろうけど」

年下の男の子を虐めて喜ぶ趣味はないけど、親友をほっとく趣味もない。

奥歯を噛みしめるようにしている桐生君を放置してチーズケーキを三口で食べルイボスティーで流し込んで立ち上がる。

「・・・・・・俺はリスクでしかないってことですか。年上ならよかったと?」

苦々しく思っているであろうのに声を荒げなかったのは偉いわ。
うちの男性ナース君たちはいい子が多いけど、他の病棟には注意した女性の上司に舌打ちしたり乱暴な口をきく子もいるから。

「そうは言ってないわよ?ただ、多角的に考えて欲しいって言ってるの。あとは吉乃の気持ちとかね。どんな夫婦だって結婚するときはまさか自分たちが離婚するだなんて思ってなかったでしょうし。ーーー愛しているからどんなことでも乗り越えられるとかただの詭弁だわ」

そう言うと一層傷ついた顔をするから私の胸も痛くなる。

「ただのお付き合いにしても結婚前提の付き合いにしてもきちんと吉乃の心を捕まえてちょうだい。ぐいぐい押すのが悪いとは言わないけど、今の君はどこか吉乃の気持ちを置き去りにしているように見える」

取り返しておいた伝票を持ってレジに向かった。




「なんだかんだ言ってもふみかは面倒見がいいんだよな」

わざわざカウンターの向こうから出てきてレジで私を待ち構えてニヤニヤする大将をひと睨みする。
クレジットカードで支払いするとレシートと一緒にデザート無料券なるものを束で渡された。

「・・・・・・。」

この店のデザートって青汁シャーベットとソフトクリーム、それと青汁ゼリーだよね。
この店で唯一やる気のないメニューがデザート部門。

余り出番のなさそうな無料券の束にため息がでるーーーー



< 87 / 136 >

この作品をシェア

pagetop