裏側の恋人たち

イレギュラーな恋 ③




二ノ宮グループの施設は研修制度も充実している。
関東近郊に持つグループ内の病院、高齢者施設、リハビリ病院、障害者福祉施設などとの職員内の交流研修。職員の交換派遣事業。
それ以外に数週間の過疎地域の移動健診なんて業務もある。
一人1回参加の義務でもある。



「ーーー私が増本主任の代わりにですか?」

「そうなの。増本主任、昨日階段踏み外して足首捻挫しちゃったんですって。あなたも知っている通り過疎地域の健診は主任レベル以上の管理者がひとり必ず帯同しないといけないの。あなた異動するのがいやだって言って去年主任昇進を断わったじゃない。経験は十分あるんだから代わりに行ってちょうだいって、これ看護部長からの命令ね」

「他の主任クラスの方々は・・・・・・」

「明後日からっていう日程に対応できる人間がいないのよ。それに基本的にみんな出張の規定回数こなしているから無理強い出来ないし」

科長の言葉にこれをもう断れる雰囲気にないことを悟った。
どうせここ数日間は仕事しか予定なかったからいいんだけど。
過疎地域の健診かーーー
主任じゃないのに主任扱いのリーダー職っていうのも気になるところである。

年に1回、二ノ宮グループの医療施設に所属するドクター1人とナースが5人、技師が3人、事務が3人が1チームになり合計3チームで島や僻地を回って2週間の健診業務を行う。

チームのドクターは3人、ナースは15人、技師は9人、事務も9人という総勢36人もの大所帯を医長クラスのドクター1人と主任クラスのナースが1人がリーダーになって纏めていかなくてはいけない。

一般職員はひとり1回過疎地健診に行けばいいのだけど、主任以上はリーダー業務があるため複数回の出張になる。しかも2週間という長期間。
そりゃあ急に家を空けることが出来る人なんて限られているよね。

それに文句があるなら直接看護部長のところに行かなくちゃいけない流れっぽいし。
おそらく部長に去年、昇進を断わったことを根に持たれている・・・。

こちらの病院での主任ポストに空きがないからとはいえ、いきなり二ノ宮グループの総本山というべき本院の主任になんてとてもじゃないけど出来るはずがないと断わってしまったのだ。

実は今の看護部長は私の新人時代の教育係だった人で、そりゃもうしつこく本院に行け行けとーーー。

「・・・・・・過疎健診、行かせていただきます」

「よかったわ。これ詳しい資料。明後日からの病棟の勤務は何とかするから心配しなくていいわよ。急な交代だからうちの病院から同行する先生には挨拶してきた方がいいわね」

「そうですね。お昼休みに医局に行ってきます」

もらった資料のスタッフ名簿を確認する。
ドクターとナースのリーダーは同じ施設から出すと決まっているからーーー
あった。今回のドクターのリーダーは整形外科の木澤先生だ。

話をしたことはないけれど、悪い評判も聞いたことはない。
ちょっとホッとしてしまう。会話が成立しなさそうなドクターを相手に2週間だと私の心身に悪いから。



二日後、私は混乱していた。

「どうして先生がここに?」

集合場所に現れたのは整形外科の木澤先生ではなく眼科の福岡先生だったからだ。

「やあ、ピンチヒッターで参加することになったんだ。2週間よろしくね、浜さん」


どういうこと????





< 88 / 136 >

この作品をシェア

pagetop