裏側の恋人たち



ビジネスホテルのファミリールームの一部屋を本部として共有使用することにしてパソコンを設置。

過疎地には当然ビジネスホテルなどはない。
だから最も近い場所にある宿をとってそこから過疎地に向かうから必然的に朝が早くなる。その代わり夕方は早く終わり、スタッフのほとんどはそれで業務終了。その後は自由時間。

しかし、福岡先生と私はそうはいかない。その後も仕事は続く。
福岡先生と私はチームとは別行動なので仕方ない。

今回のチームは健診することが仕事で、リーダーは健診結果を判定しその先のことを考えなければいけない。

検査結果に問題がある人がいれば即入院を勧めるのか、遠隔治療でいいのか、経過観察にして近医を紹介するのか、介護入所や保健所への介入の要請などを協議する。
治療方針が決まったら患者本人やご家族への説明を福岡先生と私が行い、近隣医療機関などの手配は事務スタッフが行うという流れだ。

何もなければそれなりの時間には終わるのだけど、過疎地域にはお年寄りが多いこともあり急な対応が必要なケースもそれなりにあって福岡先生と私の夕食時間はみんなより遅めになることもしばしば。

はあ、リーダーって大変。
私は前回新卒2年目で参加していて、その時はリーダーさんがこんなに大変だということに気づかなかった。あの頃は周りが見えなかったんだなと思う。

ドクターのリーダーも顔見知りの福岡先生でよかった。相性の悪いドクターとではかなりキツい業務になったと思う。
その点きちんと私の意見も聞いてくれるし福岡先生とはやりやすい。

木澤先生が用事のため福岡先生に交代したらしいのだけど、仕事の面だけは交代してくれて感謝だ。仕事の面だけはね。

あちこちから集められたスタッフだけど、寝食を共にして毎日一緒に働けば、気心も知れてくるというもので、ここで出会った人が結婚するってパターンもあるらしい。
すでに何人かはいい感じになっているらしい。
若いっていいなー。

二ノ宮グループのスタッフで貸し切りになっているホテルなので多少騒いでも迷惑にならないってこともあり、毎日の夕食時は楽しい食事会のようになっていた。

今日はみんなの夕食開始時間から1時間ほど遅れて食堂に向かった。とはいえ、修学旅行ではないので夕食は各自2時間半という枠の中それぞれ好きな時間に食べているのだけど。
夕食の時間ピッタリに食べはじめなければいけないわけじゃない。

ただ朝が早いせいかみんなの生活時間が前倒しされているらしい。割と早い時間に食べ始める人が多い。


「今日もみんな元気だね」
「そうですね。やっぱり若いからでしょうか」

福岡先生と食堂の空いていた壁際の席に並んで座る。

もう食べ終わって部屋に戻っている人もいるだろうけど、大半の人が残っている。何人かのグループでお酒を飲んだり、デザートを食べたり。中にはトランプをしている人たちも。
子どもではないので外出も可能なのだけど、田舎過ぎて行くところがないというのが現実。

スタッフのほとんどが20代で、30代なのは私と福岡先生と技師の斉木さん、事務の小杉さんくらい。小杉さんは転職組で奥さんとお子さんがいる40代の男性だ。
小杉さんはご家族とテレビ電話をするため、夕食が終わると早々に部屋に戻っていく。

< 89 / 136 >

この作品をシェア

pagetop