裏側の恋人たち
「やっと1週間。折り返しに来ましたね」

「僕はもう1週間って感覚なんだけど、浜さんはやっとって感覚なんだね」

からかうような口調にぎりぎり口角を持ち上げ笑顔を作る。
そうなのよ、悪い?それも半分以上福岡先生のせいなんですけど。

「僕のせいって言う顔だね、申し訳ないけどあと1週間防波堤になってもらえると助かる」

「出来れば、私を巻き込まずにご自分で何とかしていただきたいのですが」

「もちろん努力はしているつもりなんだけどね。ーーーおっと、またか」

福岡先生の視線の先にはど田舎のビジネスホテルの食堂に似合わない高そうなひらひらとした花柄のワンピースに着替えたナースの曽根田さん25才がいた。

トレイにコーヒーカップを2つ乗せてこちらに向かってくるのを見て大きなため息が出てしまう。

「福岡先生、お疲れさまでした。食後のコーヒーをお持ちしました。どうぞ」

ひとつを先生のトレイの横に置くと自分もその隣に座り持参したコーヒーを飲み始める。
当然のように私と反対側の福岡先生の隣に座るし、コーヒーも先生と自分の分の2つだけ。

彼女は高齢者療養型病院に勤務するナースでそこに月に2回診療に派遣される福岡先生とは顔見知りなのだとか。

今回、この健診出張で一緒になったのを好機と捉えプライベートでお近づきになろうと積極的攻勢に出てきたのだ。

それだけならいい。
勝手にやってくれと思うのだけど、彼女から私は敵認定されていた。

2人でいる時間が長いのは仕事なんだから仕方ないじゃないと思うんだけど。
仕事が終わったからそのまま一緒に食堂に行くのも隣で食べるのも普通じゃないのかな。

「僕コーヒーは余り好きじゃないんだ。よかったら浜さん飲む?」

は?と驚いて福岡先生を見ると、笑顔で私に曽根田さんからもらったコーヒーをすすっと私のトレイの前に差し出してくる。

ねえ、嘘でしょ。やめて。
曽根田さんが般若の顔をして私を見ているんですけど。
リーダーがチームワークを乱すようなことをするのはやめて欲しい。

「いいえ、わたしは食事が終わったら自分の部屋で《《ひとりで》》お酒を飲むつもりなのでせっかくですけどコーヒーは遠慮させて頂きます」

「あ、そうなんだ。うんわかった。曽根田さん、せっかく持ってきてくれたのに悪いけどそういうことだから」

福岡先生はコーヒーカップをすすっと曽根田さんの前に戻した。

「先生、昨日はコーヒーを飲まれていたのに・・・」
曽根田さんは不満顔だ。
せっかくメイク直しまでしてアピールしているんだものね・・・。

曽根田さんの不満もわからないでもない。
昨日は確かに私と食後のコーヒー飲んでたよ、この人。

それによく当直の時病棟に来て出されたコーヒーを美味しいって飲んでたよね?
もちろん今は追及しませんけど。

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