裏側の恋人たち
「浜さん、お酒を飲むつもりなら一緒に飲まない?1人で部屋で缶のお酒を飲むのならここで一緒に日本酒か焼酎を飲もうよ」
福岡先生が爆弾を投下してくる。
一見にこやかな顔して私を誘わないでぇーーーーー。
わざわざ食事が終わったら自分の部屋に戻りますってアピールしたのに。
「じゃあ私もお酒にします。ご一緒していいですよね」
曽根田さんがぐいっと前のめりになる。
「もちろんいいですよ。ね、浜さん」
「え・・・」
先生、目が笑ってません。
既に飲む前提で話が進んでいるのは全部この福岡先生のせいだ。
本当に巻き込まないでってば。
このメンツで飲んで楽しいわけがないでしょう。
その思いが伝わったのか福岡先生は近くに座る人たちに次々と一緒に飲もうと誘いをかけていく。
あっという間に8人掛けのテーブルが4つくっつけられて大きな塊になって飲み会が始まった。
もともと1人で缶チューハイを飲むつもりだったけど、食堂に残らねばならないのなら仕方ないと地酒の冷酒をいただく。
ビジネスホテルなので高級なものが置いてあるわけではなかったけれど、それなりに味わい深いお酒で満足、満足。
曽根田さんはきちんと福岡先生の隣をキープしてひたすら話しかけている。
私は斜め前と向かいに座るレントゲン技師の佐藤君と超音波検査技師の宮城さんと来週から上映予定の映画の話をした。
時折福岡先生に話しかけられ相槌を打ったりしながら1杯飲みきったところでもういいかな周りの様子を窺う。
「電話をする約束があるのでお先に部屋に戻りますね。皆さんはごゆっくり」と自分の周りにだけ声を掛けて立ち上がった。
もちろん嬉しそうな顔をしたのは曽根田さんだ。
一方福岡先生は怪訝そうな顔をする。
「電話って仕事の?」
「いいえ、プライベートですからご心配なく」
時間外勤務じゃないからお気遣いなくと言う意味だったのに福岡先生の眉間にしわが寄ったようだった。
「じゃあお先に。お疲れさまでした、おやすみなさい」と挨拶をして食堂を出る。
明日は休日だけど、食堂の閉鎖時間は22時半。あと1時間ほどで皆も解散になるだろう。