裏側の恋人たち
リーダーは各チームの出発前のショートミーティングに参加して確認することになっていた。

「Aチーム、午前杉山地区公民館48人検診予定、うち5名が特定健診のみ。午後杉山地区と大谷地区の往診健康相談です」

事務スタッフがタブレットを見ながら今日の予定を発表する。
私はそれに追加確認確認するくらい。

「追加連絡で受診者番号A-008-028の鈴木孫塀さん。腹部エコーと腫瘍マーカーの追加希望ありました。検査追加お願いします。本部の入力は済んでいます。金曜に午後巡回の大村たまさんの採血依頼が追加で出ていましたので、担当者はそちらも忘れないように気をつけてください。本部からは以上です」

「了解しました。大木さん伝票処理お願いします。他に伝達事項がなければ出発です。ーー何かありませんか?」

スタッフたちが頷いたのを確認してミーティングは終了。

「はい、では今日も一日よろしくお願いします!」の挨拶でチームは玄関前にスタンバイされたレントゲン車とワゴン車に分乗して出発、リーダーはその場でお見送りとなる。

しかし、このAチームには曽根田さんがいるので毎朝出発前に曽根田さんの福岡先生詣でがあるのだ。

パタパタと駆け寄ってきてはひと言話しかけていく。
「午後の私の担当に持病のある後期高齢者さんがいるので何かあったら連絡しますね。じゃあ先生、行ってきます」ってな感じで。

要するに福岡先生に話しかけたいのと「行ってきます」と言いたいのだと思う。
行ってきますと言えば生真面目な福岡先生から「行ってらっしゃい」と返してもらえるし。

恋する乙女だなと思う反面、ちょっと鬱陶しいと思ってしまう私。

福岡先生と私はリーダーとして並んで立っているから、毎日聞きたくなくても聞かされる羽目になるのだ。

ああやだやだ、こういうのって年寄りの僻み?
別に私に恋人がいないからって僻んでるわけじゃないし。私だって作ろうと思えばーーーー思えばーーー思えば??
まあいいや、面倒くさい。

パタパタと今朝も駆け寄ってくる曽根田さん。
はいはい、今日もですね。
福岡先生から離れようっと。

レントゲン車の運転席の隣、助手席に昨日仲良くなった女性技師の伏見さんの姿を見つけ、ちょっと嬉しくなって行ってらっしゃいと手をひらひらと振っていると、背後の曽根田さんの明るい声が耳に入ってしまった。

「先生、昨日はありがとうございました。とっても楽しかったです。じゃあいってきます!」

・・・・・・あら。あら、そうですか。

そういえば、さっき先生、ホテルの車を借りて出掛けてたって言っていたっけ。

ああ、そう。
ふうん。

一昨日の夜、抱き合っていたものね。
昨日はデートだったのか。

へえー。

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