あのねあのね、



「なちさんが言えないのは、お母さんのこともお父さんのことも、大切だから」


その瞬間、ドクンッ、と心臓に何かが刺さったような音がした。


"お母さん…、お父さんと3人で一緒にお出かけしたい"

"一緒にお話ができる友達が欲しいんだけど、どうしたら私にもできるかなあ?"

"お母さん、苦しいよ……喋れって言われて、笑われて、言葉がうまく出て来ないの"

"助けて……こわい……学校行きたくない……助けて……心が、痛いよ"


願望、相談、苦痛、悲鳴。
言おうとして、喉の奥で留めた数々の言葉。無理やり噛みちぎるようにして、押し込めた。


『あ……ううん、なんでもない』

本当は、何でもなくなんかなかった。


『わ、私は大丈夫。お仕事、がんばってね』

本当は、全然大丈夫じゃなかったのに……──


(言えなかった……ずっと何も、言えなかった……心配も、迷惑も、かけたくなかった……哀しむ顔も、見たくなかった)


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