あのねあのね、



「なちさん。きっとお母さんのためにって、今までも、今も、考えてることがたくさんあると思うんだけれど……」


涙目でグッと堪える私に、宮下さんはそのまま優しく語りかける。


「いいんだよ。お母さんのことは、気にしなくて」


「っ…、」


その言葉に思いがけず、ヒュッと喉の奥が鳴った。


「気にかけなくていい。我慢しなくていい。なちさんがお母さんやお父さんを大切に思うように、なちさん自身の気持ちや時間だって、大切だからね。それだけは言わせてほしかったの」


私の、きもち……
私の、時間……
宮下さんの言葉が頭の中で繰り返される。


「時間ってお金じゃ買えないのに、人はどうしてだか時間の大切さを忘れがちになってしまうけれど……命の時間は有限で終わりがある。それは全ての生物に与えられた、尊い、かけがえのないものよね。人の心もまた同じ」


──"大切なものは目に見えない……だっけ?"


無意識に、夕凪くんの声が脳内で聞こえる。
もう既に、夕凪くんに飼い慣らされている。


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