あのねあのね、



「ウサギは…、カ、カメのことを…振り返らなければ、勝てました……」


「…だな」


「そ、それって……もしかしたら、カ、カメのことを思っていたからでは、ないでしょうか…っ?」


「…………」


きっと私の伝え方が下手で、わからないながらに夕凪くんは話を聞いてくれている。
優しさに胸が焼けそう……。


「その、ウサギはカメがどこにいるのか、気にしてるというか……じ、自分が勝てれば、それでいいっていうわけじゃなくて、本当は優しくて…っ…」


「うん」


「い、居眠りしたのも、わざとかもしれないですっ」


「…!」


夕凪くんは驚いたような顔を見せた後、突然ブハッ、と吹き出して笑った。


「さすがカメコ、目の付け所が違うわ」


「……っ」


「負けたウサギだって、実際楽しかったかもだしな」


「!…そ、そうだったら、素敵ですっ」


夕凪くんの返しが嬉しくて、私の言葉がちゃんと伝わったことが嬉しくて、笑顔を向けてくれることが嬉しくて。


全部が嬉しくて、勢い余ってテーブルに手をつけば、夕凪くんの整った顔が目の前にあった。


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