Cherry Blossoms〜潜入捜査官と天才医師〜

番外編一 Spring Promise〜一花の誓い〜

桜の花びらがこの街のあちこちで舞い落ちていく。空は青く、こんな日は絶好の花見日和だろう。そんな中、八歳の一花は季節を感じることのない薬品の独特な匂いの漂った病院に来ていた。彼女の具合が悪いわけではない。

「遥香（はるか）ちゃん、こんにちは」

「一花ちゃん、また来てくれたの？」

個室のベッドに寝かされていたのは、色が驚くほど白く痩せ細った女の子だ。一花と同い年には見えない。

一花は時間があれば毎日のようにここに来ている。幼なじみの遥香のお見舞いのためだ。

遥香は、特発性拡張型心筋症という病気を患っている。この病気は心臓の筋肉の収縮する機能が低下し、左心室が拡張してしまう病気だ。指定難病の一つである。

「今日は日曜日だよ？いいの？こんなところに来て。お父さんたちとお花見とか行かないの？」

遥香が訊ね、一花は首を横に振る。

「行かない。お父さん、今日お仕事なんだ。行くとしたら来週かな？」

一花がそう言うと、遥香が「でもッ！友達と遊んだりするでしょ？」と訊ねる。その問いにも一花は首を横に振った。