離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます～旦那様は政略妻への恋情を止められない～

「そんなこと言ってないじゃない！」

　白い歯を見せて慶一郎おじさんは笑う。それから慈しむような目で私を見て言った。

「桔平くんはいい夫か？　美紅を泣かせたら社長権限で空を飛べないようにしてやるぞと言っておいてくれ」

　桔平さんには一番効果のありそうな脅しだった。私は大きくうなずく。

「とっても大事にしてくれるよ。慶一郎おじさんと同じくらい大切な人ができて今すごく幸せ」

「そうか。美紅の一番が俺だけじゃなくなるのはちょっと寂しいが……でも美紅が幸せなら俺もうれしい。桔平くんによろしく伝えてくれ。次は夫婦そろって遊びにおいで」
「うん！」

　慶一郎おじさんとゆっくり過ごす時間はとても楽しくてあっという間に時間が過ぎていった。

（でも、明るくしてくれてるけど……やっぱり疲れているように見えるなぁ）

　心配で何度か水を向けてみたけれど、慶一郎おじさんは私に弱音を吐いたりはしなかった。

　それから数日後。仕事を終えた私が帰宅するとミュンヘンから戻ってきていた桔平さんが出迎えてくれた。

「おかえり、美紅」
「桔平さんも！　無事でなによりです」

　彼の乗務する便が無事に到着したのは仕事中に確認していたけれど、それでも元気な顔を見るとホッとした気持ちになる。

「夕食は？」
「まだです。今夜は家にあるもので簡単に済まそうかと思って」
「簡単でいいなら作ってあるから一緒に食べよう」