離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 私よりひと足先に家を出る彼を見送った。

(なにもそんなに気に病むことじゃないよね!)

 桔平さんの優しい嘘に私はそんな結論を出した。

 おそらく彼は〝政略結婚〟を受け入れる覚悟をしただけなのだ。決めた以上はその相手であった私を大事にしようと思ってくれたのだろう。おそらく相手が私でなくても彼はそうしただろうけど……ひと昔前のお見合い結婚はそういうものだったわけで、幸せに添い遂げている夫婦もいっぱいいるはずだ。

(きっかけはどうあれ今の彼は私を愛してくれている。それ以上に望むことなんかない)

 今日の私の乗務予定は那覇便の往復と岡山便の往路。今夜は岡山にステイ予定だ。

 那覇から東京へと戻ってきて次のフライトまでは少し余裕があり、珍しくゆっくりとランチ休憩が取れた。食堂を出たところで気になるうわさ話を聞いてしまった。JG航空のベテランパイロットたちが慶一郎おじさんのことを話していたのだ。私は曲がり角にサッと身を隠して耳をそばだてる。

「浜名社長の長期政権はなさそうだな」
「あぁ。反対派の声がでかくなって本社はごたついてるようだ」

 慶一郎おじさんの社長就任には反対派も多かったとは聞いていたが、いまだにくすぶっているとは私は知らなかった。

(慶一郎おじさんの疲れた様子はこのせいだったのかな……)

「すぐに退任の可能性もあるか?」
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