離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 甘い笑み、優しい言葉、熱い抱擁。どのシーンを思い出しても彼は私を大事にしてくれている。疑う余地もない。それなのに……小さなシミがジワジワと広がって私の心を塗りつぶしていくような気がした。

 天候不順もなく、たくさんのお客さまを乗せた機体は予定時刻に岡山に到着した。

「ありがとうございました」

 タラップの手前で私は飛行機をおりるお客さまを見送っていた。今日の仕事はこれで終わりなのでホッとした気持ちだ。奥から明るくはしゃいだ声が聞こえる。
 そちらに目を向けると小学生くらいの元気な男の子ふたりが前を歩くお客さまをかき分けるようにして駆けてくるところだった。

(兄弟かな? よく似てる)

「待ちなさい! 走ったら危ないでしょ!」

 とがめるお母さんの声が届くが、彼女は赤ちゃんを胸に抱っこしていて機敏に動くことは難しそうだ。兄弟はどうも喧嘩をしているらしかった。

「ついてくるなよ!」
「だって兄ちゃんが~」

 私は彼らに声をかける。

「僕たち、このあと階段になるからと喧嘩してると危ないよ」
「だってこいつが!」

 お兄ちゃんが弟を突き飛ばす。後ろにぐらりと傾いた彼を私は慌ててかばう。なにかのでっぱりにふくらはぎをぶつけて痛かったが、なんとかがんばって笑顔をキープした。

「ご、ごめんなさい!」
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