離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
「自分の足元見てみなさいよ。JG空港CAの自覚が足りていないわ」

 彼女たちが遠ざかってから私は自分の足元に視線を落とす。右足のストッキングが思いきり伝線していて、たしかに〝みっともない〟状態だった。

「やだ! さっきぶつけたときかな? 気づかなかった」

 身だしなみを整えるのもCAにとっては重要な仕事だ。短時間とはいえこの状態で空港内を歩いていたのなら『自覚が足りない』と言われても反論できない。

(結婚もコネ利用。こっちも反論できないかも)

 情けなさに涙がにじむ。かすんだ視界に桔平さんとおそろいの腕時計が映り込む。それをギュッと握って私は唇をかんだ。

(一度目のプロポーズも二度目も……全部、慶一郎おじさんの存在ありきだったのかな? もし私が彼の姪じゃなかったら……)

 信じたい。でも、桔平さんではなく自分が信じられない。

(自分でも桔平さんに釣り合う女性だとは思えないんだもの)

「ただいま、美紅」
「お、おかえりなさい。すみません、今ちょっとスケジュールがきつくて……先に休みますね」

 ニューヨークから戻ってきた桔平さんにそんな嘘をつく。彼はほんの一瞬寂しそうな目をしたけれどすぐに穏やかな笑みを浮かべた。

「そうか。無理せずゆっくり休めよ」
「――はい」
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