離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 笑顔で仕事をできるような気分ではなかったが、なんとか勤務は休まずにこなしていた。たとえ落ちこぼれでも私だってJG空港のCAだ。この仕事に誇りがある。

(パイロットとCA……ラブラブなときはすれ違いばかりで寂しいと思ってたけど、こういう状況だとむしろありがたいな)

 特別な言い訳をしなくても「仕事だから」とひと言であまり顔を合わせなくて済む。そうやってすれ違ったままになってしまった先輩夫婦が何組かいることも知っているけど……まだ桔平さんと向き合う覚悟はできなかった。

 ファミレスのドリンクバーの薄いアイスティーをひと口飲んで私は深いため息をつく。今日は遅めの出勤予定だったのに桔平さんとの会話をさけるため朝早くにマンションを出た。なのでこうして空港近くのファミレスで時間をつぶしているのだ。
 小柴さんとの対面から一週間ほど。やっと少し気持ちの整理ができてきた。

(小柴さん、感じの悪い人だなって思っちゃったけど……そんな事情があったなら私を憎むのも当然だよね)

 彼女が嘘をついているとは思えなかった。そんなことしても小柴さんにはなんのメリットもない。

(桔平さんも苦渋の決断だったのかもしれないな。好きな人と大門家の御曹司としての責任の間で揺れて……)

 彼が後者を選んだと考えても不思議はない。なぜなら現実問題として、やっぱり慶一郎おじさんが社長を続けるためには桔平さんの力が必要らしいとわかったから。

 正直なところ、小柴さんの存在だけなら私はここまで悩まなかったかもしれない。
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