離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
「なにも。なにもないよ! いつもどおりだから」
「怪しいなぁ」
「怪しくないよ! それじゃ、おつかれ!」

 いぶかしげな顔の尊を残して私は女子更衣室に逃げ込む。
 自分のロッカーに片手をついて、思わず大きなため息をこぼした。
 離婚を大々的に公表する必要はないと思っているけれど、それでも尊やお世話になっている上司にはきちんと報告をするつもりでいた。だけど、今の状況はなんとも宙ぶらりんだ。

『ほんの少しでいいから猶予をくれないか? これを出すのはしばらく待ってほしい』

 ゆうべ、離婚届を手にした桔平さんにそう懇願された。なにがなんだかわからぬままにうなずいてしまったけど、あれはどういうことだったんだろう。
 仕事をして頭を切り替えれば理解できるかも?と期待したけど、今も全然わからない。本当なら今夜はパソコンとにらめっこで離婚後に暮らす新居を探すつもりでいた。だけど、いつ離婚が成立するのかはっきりしない状態では探せない。

「はぁ」

 ロッカーを開けると扉裏の大きな鏡に自分の姿が映った。
 JG航空CAの制服はネイビーのジャケットにタイトスカート。シャツはライトブルーでスカーフは鮮やかなピンク色。知的でかっこよくて私もお気に入りだ。
 その制服を脱いで私服に着替えると、まっすぐに家へ向かった。四フライトもこなしたあとでは飲みに行く元気など残っていない。
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