離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 キッチンで彼が鍋をかき混ぜていて、すでにいい匂いが漂ってきている。
 私は彼に近づき声をかけた。

「桔平さん、お料理するんですね」
「外食ばかりじゃ栄養が偏る。パイロットは身体が資本だからな」

 パイロットには定期的な健康診断が義務づけられていて引っかかると飛べなくなる。なので、アスリートのように運動や食事を細かく管理している人も多い。

「なにかお手伝いすることはありますか?」
「気にせずゆっくりしていてくれ。あぁ。頼んでもいいのなら今日あったことを聞かせてほしいかな」

 パイロットはオフの日でも世界の気象情報などは気を抜くことなくチェックをするものだ。私は納得して彼に話す必要がありそうな情報を頭のなかで整理する。

「今日は日本の上空は穏やかでしたが、自社便だとシアトル、リスボン、ケープタウンで天候不良によるディレイが発生していました。他社便では――」

 ディレイとは発着遅延のことだ。航空業界はたとえ競合他社であっても、普段から情報を共有し有事には協力体制を敷けるよう準備している。
 でも、私の発言に桔平さんは困ったような顔をする。

(欲しいのはこのレベルの情報じゃなかったのかも。もっとほかに有益そうな――)

「いや、業務報告を求めたわけじゃないんだ。もっと他愛ない話でランチになにを食べたとか」
「へ? ランチは宮﨑空港内のレストランできつねうどんを食べましたが……」
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