離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 この情報は桔平さんに必要なのだろうか。私が当惑していると彼は少し照れたように笑う。

「わかった、白状するよ。ただ君の……美紅の声を聞いていたいだけなんだ」

 甘い笑みとともに送られた言葉に私はフリーズしてしまう。

(やっぱりゆうべからずっと夢を見てるのかな? とても現実に思えない)

 夢ならばもう少しだけ堪能しよう。私は図々しいことを考えて、料理をする彼のそばでその姿を眺めていた。
 野菜たっぷりのポトフ、鶏の照り焼き、ポテトサラダ。偶然にも桔平さんの作ったものは私の好物ばかりだった。

「わぁ。おいしそう! 全部、好きなものばかりです」

 ダイニングの椅子に腰かけながら礼を言うと、桔平さんは楽しそうに肩を揺らす。

「知ってるよ」

 予想していなかった返事に私が目を瞬くと彼は続けた。

「君が社食でよく食べているメニューにしたから」

 大きな空港には従業員専用の社員食堂があったりする。

(嘘! 私はどこの社食でもつい桔平さんの姿を探したりしてるけど、桔平さんも私に気がついてくれたことがあったの?)

 信じられない思いだけれど、テーブルに並ぶメニューはたしかに私がよく選んでいるものと同じだった。
 私はふわふわした気持ちのまま料理に箸を伸ばす。

「おいしいです、すごく」

 桔平さんの作ってくれた料理は優しい味で疲れた体に染み入った。彼はホッとしたような顔を見せる。
< 19 / 183 >

この作品をシェア

pagetop