離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 ぱちりと彼と目が合った。深みのある黒い瞳がいやに熱っぽくて私の胸をときめかせる。

「あ、えっと」

 桔平さんは椅子から腰を浮かせてこちらに身を乗り出した。彼の手が伸びてきて、大きな親指が私の唇をなぞる。私の身体がびくりと跳ねた。

「ソースがついてる」

 ふっとかすかに笑んで彼は親指についたソースをぺろりと舐めた。その仕草はゾクゾクするほど色っぽくて、私の鼓動は一段とそのスピードを増す。

(ほんの少し唇を触られただけでどうしようもなくドキドキする)

 高揚する心とほてる身体を私は持て余してしまった。

 私と桔平さんは清すぎる関係で……初夜はおろか結婚式の誓いのキスすらしていない。列席者は誰も気がついていなかったと思うけれど唇が重なる手前で寸止めされてしまったのだ。

(愛のない結婚と突きつけられたようで、あれはつらかったな)

 桔平さんとのこれまでを思い出す。

* * *

 一年半前、十月。
 私は東京第一空港の広い社員食堂を見渡し友人の姿を捜す。すると、彼女が先に気がついて片手をあげてくれた。

「美紅! こっち、こっち」

 椅子から腰を浮かせて私を呼ぶのは同期入社のCAで一番親しくしている藤野夕菜(ふじのゆうな)だ。私は野菜炒め定食をのせたトレーを持ちながら彼女の隣に腰をおろす。
「夕菜、久しぶり! 席を取っておいてくれてありがとう」
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