離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます～旦那様は政略妻への恋情を止められない～

　私が直球の質問を投げかけると彼は慌てたように顔の前で両手を振る。

「いやいや、誤解するなよ。俺は自分の出世のために美紅の人生を犠牲にする気はまったくないし、そもそも社長になりたいわけでもない。大門社長には恩があるから定年までこの会社に尽くそうとは思っているけど」

　彼がパイロットを引退したのは私のためだ。まだ十歳だった私を育てるにはパイロットの生活が不規則すぎたから。それで夜勤のない仕事に転職を考えていたところ、大門社長に引き抜かれＪＧ空港の総合職になったのだ。

「政略結婚なんて今時なぁ……桔平くんも美紅も嫌がるだろうと思って、社長にもさりげなくそう伝えたんだが」

　慶一郎おじさんとも親しくしている社長秘書の女性たちに『姪っ子さんは絶対に喜ぶだろうから勝手に握りつぶすのはよくない』と説得されたそうだ。
　頭のなかで私の分身たちが好き勝手にしゃべり出す。

（これで慶一郎おじさんに少しは恩返しができるんじゃない？）
（大門コーパイと話をするチャンスかも！）
（いやいや、冷静になってよ。大門コーパイが私なんかと結婚……万が一にもありえないでしょう）

「おーい、美紅。聞いてるか？」

　慶一郎おじさんが私の顔の前でヒラヒラと手を振る。
　予想もしていなかった事態に私の脳は完全にキャパオーバー状態だった。