離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 それからひと月も経たない大安吉日の日曜日。
 私は空色の振り袖に身を包み、慶一郎おじさんと一緒に港区芝の割烹料亭を訪れた。

(慶一郎おじさんの立場を悪くするわけにはいかない……は完全に建前。本当はただ、もう一度だけ大門コーパイと言葉を交わす機会が欲しかった)

 うまくいくはずがないことは承知のうえだ。私と大門コーパイが並べば不釣り合いすぎることに大門社長も慶一郎おじさんも気がつくだろう。それでも一緒に時間を過ごすことができるだけで私には夢のようだった。

 案内された個室には私たちより先に到着していた大門家のふたりが座っていた。
 美しい日本庭園を眺めることのできる和室で、ローテーブルに座椅子が四脚のスタイルだった。あいさつを済ませるとふたりの向かい側に私と慶一郎おじさんも腰をおろす。最初に口を開いたのは大門社長だ。

「まぁ、見合いと気張らず職場の懇親会とでも思ってくれ。みんなJG航空で働く仲間だしな」

 社長は私がガチガチなのを見て軽い言葉をかけてくれたのだろうけれど……財界でも大きな力を持つ大門家の当主と憧れのコーパイを前にして緊張するなと言われても無理がある。私は口から心臓が飛び出そうなのをなんとかこらえて顔をあげる。

 真正面に彼がいる。近寄りがたいほどの高潔な美貌。制服姿も素敵だけれど、仕立てのよいダークグレーのスーツも気品があり思わず見とれてしまう。
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