離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
「俺に気を使う必要はない。俺はパイロットを続けたくてそのための交換条件として結婚を承諾したんだ。君を利用しているだけだから」

(利用……そうだよね)

 いつかは愛が生まれるかも……そのかすかな期待さえも打ち砕かれてしまった。私が彼に愛される日は永遠に来ない。

(慶一郎おじさんが社長になったらこの関係は終わり――)

* * *

 初夜のときの言葉どおり彼は私に指一本触れることはなくて……最初から最後まで私たちの関係は〝契約夫婦〟でしかない。そう信じていた私には今の状況はやっぱり謎だらけだ。

(夢なら冷めないでとも思うけど……甘い夢に浸りすぎてしまったらあとがつらくなるよね)

 そろそろ現実に戻るべき。私は自分にそう言い聞かせた。
 彼が食事を作ってくれたので後片づけは私が担当した。ソファでくつろぐ彼に食後のコーヒーを出しながら自分も隣に座った。
 それからおもむろに彼を見据えた。

「桔平さん」
「なに?」

 柔らかな声音が耳に心地よい。いつまでも聞いていたくなる気持ちを抑えてひと息に告げた。

「離婚のこと、私に気を使う必要はないですから!」

 彼はきっと遠慮しているのだろう。用が済んだら即離婚じゃさすがに体裁が悪いと思っているのかもしれない。一応は夫婦としてやっていく道を探り……真面目な桔平さんのことだからもしかしたら私を好きになる努力もするつもりなのかも。
< 43 / 183 >

この作品をシェア

pagetop