離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 牛肉と玉ねぎを炒めて煮込む。レストランで提供されるような本格的なものではなく家庭料理のハヤシライス。具材が少ないぶんカレーより簡単だ。そこも私がこの料理が大好きな理由だった。
 コンソメスープとグリーンサラダもつけてテーブルに運ぶ。洗練された大理石のダイニングテーブルに並ぶとなかなか豪華なディナーに見える。

「うまそうだな」
「えっと、本当にごく普通なので。過度な期待はしないでくださいね」
「大丈夫。期待してるのは普通のハヤシライスだから」

 言って彼はふっと噴き出す。くつろいだ雰囲気の笑顔に思わずじっと見入ってしまった。

 桔平さんの笑顔は希少価値が高い。私がさけられているから……というだけではなく彼は職場でもいつもクールだから。
 大門家はJG航空の創業者一族、つまり桔平さんは御曹司。もちろん狭き門である自社養成パイロットはコネでどうこうなる世界ではない。それでも入社当時は『大門家の人間だから』と陰口を叩かれることも多かったらしい。それらの声を彼は実力でねじ伏せた。知識量、操縦技術、判断力と実行力、どこを見ても同世代のパイロットのなかでは抜きん出ていて歴代最年少で機長に昇格したときはもう誰も文句をつけなかった。
 それに加えてこの美貌だ。エリートぞろいのパイロットや美女ばかりのCAでも桔平さんには近寄りがたいと思うのか社内でも孤高の存在だった。
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