離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
「うっ、ならせめて英語の作品で」

 彼は英語、中国語、フランス語はほぼ完璧らしいが私はまだ英語でいっぱいいっぱいの段階だ。桔平さんは破顔して「美紅の勉強によさそうな作品を探しておくよ」と約束してくれた。

 約束が積み重なっていくことがうれしくて少し怖い。

(なんの思い出もない状態でも別れがつらく感じたのに、たくさん思い出ができちゃったらもっと離れがたくなってしまう)

 現に今だってショーの時間にならなければいいと願っている。この楽しいデートがずっと続けばいいのにと――。

 運河をゆったりと遊覧するゴンドラに乗りながら私は園内を見渡す。凝った造りの建物も色とりどりのチューリップが咲き誇る花壇も昔から変わっていない。

「このテーマパーク、好きなのか?」

 隣に座る桔平さんに尋ねられ私はうなずいた。ちょっと迷ったすえに話し出す。

「十歳の誕生日に両親に連れてきてもらったんです。それが……お父さんとお母さんに祝ってもらった最後の誕生日になったので」

 誕生日の三か月後、家族三人で乗っていた車が居眠り運転のトラックと衝突して私の両親は死んでしまった。隣に座っていたお母さんがかばってくれたおかげで私だけが軽傷で助かったのだ。

「そうか。両親との思い出の場所なんだな」
「って、せっかく来たのに暗い話題を出してしまってごめんなさい。もっと楽しい話を――」
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