離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 事故からの数年間、私は乗りもの恐怖症だった。車もバスも電車も、そして飛行機も……事故の可能性があるものはすべて怖いという状態。学校は徒歩圏内のところを選び電車やバスでさえ必要最低限しか乗らないようにしていた。パニックを起こしかけるからだ。
 慶一郎おじさんの影響で小さい頃から夢はCAになることだったけど、乗りもの恐怖症をなかなか克服できず諦めるしかないと思っていた。

「本格的に進路を選ばないといけない高校二年生のとき、ある航空会社が夏休み向けの企画で職業体験会みたいなものをやっていたんです。そのとき、そこのパイロットがしてくれたお話に感銘を受けて……乗りもの恐怖症を克服しようと決めたんです」

 ある航空会社はJG航空でパイロットは桔平さんだ。

(でも、桔平さんからすれば私はたくさん来ていた高校生のうちのひとりだもの。覚えているはずもないわ)

 彼が覚えていてくれていることを期待したわけではないのだ。ただ、ずっと感謝していることを伝えたかった。

「私がこうしてCAになれたのは彼のおかげ。パイロットとCAで職業は違うけれど、ずっと目標にしている人なんです」

 積もる思いを打ち明けることができて私はとても晴れやかな気持ちだった。澄んだ青空を見あげて頬を緩める。すると桔平さんも同じように空を仰いだ。

「そうか。そのパイロットも……きっと美紅がCAになってくれてうれしいだろうな」
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