離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 それから二週間後。
 大急ぎで制服を脱ぐ私に夕菜が声をかける。

「飲みにでも行く?って誘おうと思ったけど、その様子じゃ今日は予定があるのね」

 今日のラストフライトは珍しく夕菜と一緒だった。明日はオフだしゆっくりおしゃべりしたい気持ちもあるけれど彼女の推測どおり今夜は先約があるのだ。

「ごめん! 今日は桔平さんもオフだから――」

 通勤時の定番にしているベージュのタイトスカートのファスナーをあげながら夕菜に答えるが、最後まで言わずとも彼女は察してくれた。

「夫婦で仲良くデートなのね。楽しんで!」
「ありがとう」

 今夜は楽しみにしていたワインの飲み比べをする予定だった。互いに仕事の前夜は飲まないようにしているので今夜を逃すと一緒にアルコールを楽しめる日はまたずいぶん先になってしまう。今日だけは残業になりませんようにとの願いが叶ったので私は浮かれ気味だ。
 私のにやけた笑顔に夕菜は安心したように口元を緩めた。

「よかった。大門コーパイとうまくいってるのね」
「え?」
「美紅、あんまり結婚生活のことは話してくれないからさ。ちょっと心配してたのよ」
「あ……その、なんだか気恥ずかしくて」

(これまでは話せるようなエピソードがなにもなかったから……)

 仮面夫婦だった事実は誰にも話していない。夕菜には相談したい気持ちもあったけれど妙なうわさが広まって慶一郎おじさんの社長就任に影響が出たら本末転倒だと我慢していたのだ。
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