離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます~旦那様は政略妻への恋情を止められない~
 そんな彼とやる気が空回りしてばかりの落ちこぼれCAである私。こうして食卓を囲んでいること自体が夢みたいなものだったのだ。本来なら職場が同じ以外にはなんの接点もないふたりだった。

(現実に戻るだけよ、美紅)

 切り替えが早いのは私の数少ない長所のひとつだ。先輩にも『どれだけ怒られても翌日に引きずらないのは偉い!』とよく褒められる。

「うん。うまい!」

 桔平さんが優しい声で感想を教えてくれた。

「えへへ。お口に合ってよかったです! そういえば桔平さん、先週はヘルシンキでステイでしたよね? 街を歩いたりしましたか?」

 私はまだ国際線フライトの経験がない。CAは入社から数年は国内線で経験を積むのが慣例だ。海外ステイは憧れだった。

「あぁ、あっちはまだかなり寒かった。けど、綺麗な街だから女性には人気だな」
「たしかに! 北欧便は女性のお客さまが多いですよね」

 意外とフライト時間が短めなこともあり観光需要は伸びている。それにともなって直行便の数も増えた。

「私は北欧には一度も行ったことがないんですよね。いつか旅行できたらなと思っているんですけど」
「行くなら断然、夏がオススメだ」

 桔平さんのお気に入りの都市、CAの間でささやかれるうわさ話。
 他愛ない話題ばかりだったけれど、桔平さんがおしゃべりに付き合ってくれるのがうれしくて少々しゃべりすぎてしまった。
< 6 / 183 >

この作品をシェア

pagetop