離婚直前、凄腕パイロットの熱烈求愛に甘く翻弄されてます～旦那様は政略妻への恋情を止められない～

　勢いよく玄関ドアを開けるとすぐに桔平さんが顔をのぞかせた。ホワイトのオックスフォードシャツにネイビーのチノパン。勤務中はワックスでしっかりと整えている前髪がラフに額にかかっている。

（カジュアルも似合うなぁ）

　思わずポーッと見とれてしまう。

「おつかれさま。残業なかったんだ？」
「はい！　今日のチーフは厳しいことで有名だったんですけど、私の祈りが通じたのか奇跡的にデブリもさくっと終わって――」

　私の浮かれぶりがおかしかったのか桔平さんはククッと白い歯を見せた。

「ごめんなさい。子どもじゃあるまいし、はしゃぎすぎですよね」
「いや。俺も朝からものすごく楽しみにしてた。美紅が残業にならないか気になって何度もフライトレーダーを見たりして」
「えぇ、本当ですか？」
「あぁ」

　フライトレーダーはリアルタイムで飛行機を追跡できるサービスだ。あまり知られていないが航空会社勤務でなくともインターネット上で誰でも自由に見ることができる。

「さっき百貨店に行ってワインに合いそうなつまみも買ってきた」
「わぁ、楽しみ！」
「自分で作ってみようかとも思ったんだが、フレンチは手間がかかるんだな」
「本格的に作ろうとすると大変ですよね。私はフレンチ風の時短レシピをよく参考にしますよ」

　リビングのローテーブルにテーマパークで買ってきたワイン数種類とつまみを並べる。